6831004 West Asian History
Numbering Code | U-LET25 36831 LJ36 | Year/Term | 2022 ・ First semester | |
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Number of Credits | 2 | Course Type | special lecture | |
Target Year | Target Student | |||
Language | Japanese | Day/Period | Thu.3 | |
Instructor name | NIGO TOSHIHARU (Part-time Lecturer) | |||
Outline and Purpose of the Course |
《授業全体のテーマ》 通常のイスラーム思想史ではほとんど顧みられないのだが、或る類の言語哲学形態(なにがしかの意味でアラビア語から立ち上げられる言語哲学)がイスラーム思想の歴史において重要な柱であったと私は思う。昨年度の講義では、ロジェ・アルナルデス(Roger Arnaldez)がイブン・ハズム(西暦1064年歿)を論じた研究書(Grammaire et Theologie chez Ibn Hazm de Cordoue, Paris, 1956)を採り上げた。残念ながらその研究書全体を扱うことが出来なかった。今年度は、やや趣向を変えてフランスにおけるイスラーム思想研究の一つの流れに焦点を当てたい。ロジェ・アルナルデスの研究書は、イブン・ハズム/ザーヒル主義研究の金字塔であるばかりでなく、イスラーム思想を言語思想の方向から読むという点で画期的であった。それを継承するのが、ジャック・ランガド(Jacques Langhade)の研究である(Du Coran a la Philosophie, Damas, 1994)。ランガドがアルナルデスの全面的な指導の下に同書を完成させたのは、同書序に見えるとおり。 本講義では、アルナルデスのイブン・ハズム研究書の後半部分とランガドの研究書を扱う。詳細は、授業計画をご覧いただきたい。アルナルデスの研究書は、イスラーム思想研究に重要な示唆を与える点が多々あった。取り分けて日本人にとって重要なのは、井筒俊彦の英文著作群に意味論という方法論を与えるものであったことだ。アルナルデスでは、まだ萌芽的であった意味論が、ランガドでは、徹頭徹尾使い尽くすし方で扱われているのが興味深い。井筒の意味論が如何なるものであったかは、アルナルデス、ランガドのフランス語圏イスラーム思想研究での意味論研究の深まりと比較することなくして充分な評価ができないのではないか。 ランガドの研究対象は、クルアーンやハディース(ムハンマドの言行録)の意味論から、アラビア文学、いわゆる宗教諸学を経由して、ファーラービー(西暦950年歿)の言語論に至る。その意味論の探究は、イスラーム文化が言語を如何に認識したかに焦点が当てられる(その分析に意味論が使われる)。現在、イスラーム哲学(ファルサファ)研究は、ほぼ同時代のイスラーム思想(コンテキスト)を無視する形で行われるが、ランガドの研究書は、その状況を打破する格好の素材であろう。 なお二つの研究書は仏文であるが、事前に和訳と原文テクストを配布する。 |
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Course Goals |
本講義は「イスラーム言語哲学史研究」と銘打った。イスラーム思想において「言語/アラビア語」を研究対象とするのは、限られた思想家だけでない。或る意味で既にクルアーンにおいてそうした傾向が見えるし、主要な思想家たちはぼぼ例外なく言語哲学的な側面を有つ。種々の思想家たちの言語思想に触れることで、イスラーム思想史のかなりの部分が言語思想/言語哲学であるのを考察できる。これは、別の言い方をすれば、従来のイスラーム思想史記述に何が欠けていたのかを理解することでもある。 本講義は、アルナルデスが扱うイブン・ハズムにおける論理学と文法学と、ジャック・ランガドが扱うファーラービーにおける論理学と文法学が対比される。イスラーム思想界において論理学と文法学の位置づけがさまざまになされるのを目の当たりにすることになる。イスラーム思想において、論理学/文法学の問題がただならぬ問題であるのを考察できる。 |
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Schedule and Contents |
基本的にR・アルナルデス『コルドバのイブン・ハズムにおける文法と神学』並びにJ・ランガド『クルアーンから哲学へ』の章立てに従って講義を進める。ただし講義の進みぐあい――鋭い質問への対応も含む――に応じて順序や同一テーマの回数を変えることがある。事前に私の日本語訳を配布するので出来うる限り眼を通しておいていただきたい。 第1回 概説――フランスのイスラーム思想研究、意味論、井筒俊彦 第2回 『コルドバのイブン・ハズムにおける文法と神学』(1)――イブン・ハズムの対人論理(イブン・ハズムの言語哲学概説) 第3回 『コルドバのイブン・ハズムにおける文法と神学』(2)――ザーヒル法学派とシャーフィイー法学派の対抗 第4回 『コルドバのイブン・ハズムにおける文法と神学』(3)――ハディース批判など 第5回 『コルドバのイブン・ハズムにおける文法と神学』(4)――イブン・ハズム神学(1)イブン・ハズムの論敵たち(ムウタズィラ派とアシュアリー学団) 第6回 『コルドバのイブン・ハズムにおける文法と神学』(4)――イブン・ハズム神学(2)イブン・ハズムの批判神学 第7回 『クルアーンから哲学へ』(1)――クルアーンとハディースの言語観/言語の意味論(1) 第8回 『クルアーンから哲学へ』(2)――クルアーンとハディースの言語観/言語の意味論(2) 第9回 『クルアーンから哲学へ』(3)――アラビア語散文学における言語観/言語の意味論 第10回 『クルアーンから哲学へ』(4)――法学・神学・神秘主義における言語観/言語の意味論 第11回 『クルアーンから哲学へ』(5)――文法学・辞書学における言語観/言語の意味論 第12回 『クルアーンから哲学へ』(6)――ファーラービーの言語理論(1)諸言語の形成と諸学における術語形成 第13回 『クルアーンから哲学へ』(7)――ファーラービーの言語理論(2)哲学言語の形成 第14回 『クルアーンから哲学へ』(8)――ファーラービーの言語実践(1)論理学vs.文法学 第15回 『クルアーンから哲学へ』(9)――ファーラービーの言語実践(2)哲学概念の分析 |
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Evaluation Methods and Policy |
期末レポートのみで評価する。 レポートについては到達目標の達成度に基づき評価する。 独自の工夫が見られるものについては、高い点を与える。 |
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Course Requirements | None | |||
Study outside of Class (preparation and review) | 事前に仏文テクストと和訳を配布するので講義に備えて読んでおくこと。 | |||
Textbooks | Textbooks/References | 使用テクストは、R. Arnaldez, Grammaire et Theologie chez Ibn Hazm de Cordoue: Essai sur la structure et les conditions de la pensee musulman, Paris: Librairie Philosophique J. Vrin, 1956とJ. Langhade, Du Coran a philosophie: La langue arabe et la formation du vocabulaire phisolophique de Farabi, Damas: L'Institut Francais d'Etudes Arabes de Damas, 1994. |