Nature and Culture : Perspectives from Agriculture

Numbering Code U-LAS53 10001 LJ31 Year/Term 2022 ・ First semester
Number of Credits 2 Course Type Lecture
Target Year All students Target Student For all majors
Language Japanese Day/Period Wed.2
Instructor name TAKEDA SHINYA (Graduate School of Asian and African Area Studies Professor)
FURUSAWA TAKURO (Graduate School of Asian and African Area Studies Professor)
KOSAKA YASUYUKI (Graduate School of Asian and African Area Studies Associate Professor)
YANAGISAWA MASAYUKI (Center for Southeast Asian Studies Associate Professor)
Outline and Purpose of the Course  農林業は、生物生産を通じた技術的体系あるいは経済的営為であるだけでなく、自然と深く関わってきた歴史の所産としての文化という側面をもっている。また、農林業は、その営みを通じて地域の環境形成やその維持にも大きな役割を果たしてきた。国内外での多様なフィールドワークにもとづいて、地域の環境や文化の形成・維持に果たしてきた農林業の役割を明らかにしつつ、「農」の営みがもつ現代的な意義と意味を問いかける。
Course Goals  地域の環境や文化の形成・維持に果たしてきた農林業の役割を考察できるようになる。
Schedule and Contents  各教員が複数回の講義を担当する。それぞれのフィールドワークを基礎に以下の課題についてリレー講義を行う。

第一部 生存を支える農の営み
1)イントロダクション(竹田晋也)
 農林業は、生物生産を通じた技術的体系あるいは経済的営為であるだけでなく、自然と深く関わってきた歴史の所産としての文化という側面をもっています。また、農林業は、その営みを通じて地域の環境形成やその維持にも大きな役割を果たしてきました。本講義では、国内外での多様なフィールドワークにもとづいて、地域の環境や文化の形成・維持に果たしてきた農林業の役割を明らかにしつつ、「農」の営みがもつ現代的な意義と意味を問いかけていきます。まずはこの教室を出発点として「自然と文化」を考えることからはじめてみましょう。
2)農の基盤としての地球(柳澤雅之)
農の営みは、人間が自然のシステムをうまく利用することで成り立っています。具体的には、物質やエネルギーの循環、生き物の繁殖や遺伝といった、地球の自然が持つ多様なシステムをうまく利用しているわけです。そしてこれらのシステムは、地球誕生以来の歴史の中で形成されてきたものです。農の営みの基盤としての地球システムの読み解きについて考えます。
3) 適応のカタチから見る自然と人の相互作用(柳澤雅之)
「自然と文化」を考えるためは、地球システムの中で営まれてきた、自然と人の相互作用の歴史的経緯を理解する必要があります。そのことを、「技術的適応」、「制度的適応」、「グローバル適応」の三つに分けて考えます。これにより、人間ひとりひとりの個別的な対応から、より組織的な対応まで、また、よりローカルな対応から、よりグローバルな対応まで、総合的に理解することを目的としています。

第二部 文化としての水田耕作
4) アジアの水田稲作と「緑の革命」(小坂康之)
 アジアでは各地に水田がみられますが、稲作技術は地域ごとに異なっていました。それは、地形や土壌、気温、降水量など、地域の自然環境に適した細やかな技術が培われ、長年にわたって受け継がれてきたからです。しかし、「緑の革命」と呼ばれる農業の近代化の過程で、環境負荷の小さい細やかな技術が失われてきました。農業生産と環境保全を両立させることは可能なのか、アジアの様々な水田稲作を紹介しながら考えます。
5)水田稲作と水域生態系(ゲストスピーカー:岩田明久)
在来の方法で営農されてきた水田は米を収穫する目的と同時に、様々な生物を育んできました。一方において、圃場整備後の水田とその周辺では水域生態系が著しく劣化してしまいました。その原因はどのような理由に由来するのか、事例を紹介しながら考えます。
6)東南アジアの水産資源とその利用(ゲストスピーカー:岩田明久)
東南アジアの水産資源利用の特徴は、日本と比べたとき、淡水魚を利用する比率が高いという点です。どのような魚がいかなる方法で採取され利用されているのかを、ラオスでの事例を中心に紹介し、生態資源利用のありかたについて考えます。

第三部 有用植物の世界
7)暮らしを彩る植物(小坂康之)
私たちは、食料や薬、衣服や住居の材料はもちろん、食器や調理具、農具、燃料、洗剤、染色剤、儀礼祭祀の用具にいたるまで、日常生活でさまざまな植物を利用してきました。安価で便利な工業製品が普及する近年では、植物材料の品質の良さや環境負荷の低さが再評価されています。日本各地の自然と文化のもとではぐくまれてきた植物民俗を、世界の事例と比較しながら学ぶことで、植生の分布、農の営み、生活文化への理解を深めます。
8)薬用植物の利用と伝播(柳澤雅之)
16世紀末に本草綱目が編纂されて以降、東アジアには巨大な生薬市場が存在していました。製品となった薬だけでなく、植物体そのものも各地に持ち込まれ、植物相にも影響を与えたと考えられます。ベトナムや日本のシナモンを中心的な事例としながら、近世以降のアジアにおける薬用植物の利用と伝播を追いかけます。それにより、現在の私たちの身近にある自然や文化の中に見出される植物の来歴を考えます。

第四部 森が育む文化
9)里山の環境利用(小坂康之)
日本では現在、木材伐採、薪炭材や刈敷きの採集、狩猟などによる森林資源利用が少なくなりました。その結果、かつて里山を覆っていたコナラやアカマツの明るい疎林は、シイやカシがうっそうと茂る照葉樹林になりました。シカやイノシシなどの野生動物が増え、農作物や森林植物の食害が問題化しています。一方で東南アジアの里山では、資源の過剰採集による森林の劣化が指摘されています。日本と東南アジアの里山を比較しながら、人と自然の付き合いかたを考えます。
10)「常緑の革命」としてのアグロフォレストリー(竹田晋也)
 アグロフォレストリーとは、農作物や家畜との組み合わせで樹木を育てる土地利用システム・技術の総称で、人類が古くからおこなってきたごく身近な土地利用の方法を新しい用語でよびかえたものです。樹木・農作物・家畜を組み合わせることで、森林の機能を活かしつつ、土地生産性を高めていく方法として注目されてきました。日本・東南アジア各地のアグロフォレストリーを紹介してそのシステムの成立要因を探り、さらに「緑の革命」の及ばない限界地での「常緑の革命」の可能性について考えます。
11)非木材林産物と資源管理(竹田晋也)
 近年では木材のみが森林の産物と見られがちですが、工業化が進展するまでは、森林は多種多様な非木材林産物の源泉でした。とりわけ東南アジアでは、非木材林産物の商品生産により熱帯林が持続的に利用されてきた例が多く見られます。「樹脂」生産の事例紹介を通じて、非木材林産物が森林資源の維持・再生に果たしてきた役割を探ります。
12)照葉樹林文化(柳澤雅之)
 ヒマラヤ山脈中腹から西日本にかけての地域には、カシやシイ、ツバキ等、葉に光沢のある樹木が卓越する植生がかつては卓越し、これらと同じ地域に、水さらしによるアク抜きや漆の利用、モチ、お茶、味噌・納豆、シルク生産といったさまざまな物質文化と、洪水神話や羽衣伝説といった精神文化の両方で共通の文化要素が見て取れます。これを照葉樹林文化と呼びます。照葉樹林文化を紹介しながら、自然と文化について考えると同時に、フィールドワークに基づいた京都大学の知の伝統について考えます。

 第五部 暮らしと食の未来
13)ヒマラヤの暮らしの変容(小坂康之)
東ヒマラヤは地形が険しく、疾病が猖獗を極め、20世紀半ばまで外部者の立ち入りを阻んできました。その後、インドと中国の国境係争地になると、インドによる実効支配確立のため、文化の異なる人々の同化政策が進められました。その過程で、地域固有の言語は共用語へ、焼畑耕作は水田耕作へ、雑穀食は米食へと転換されつつあります。ヒマラヤの暮らしの変容をテーマに、自然、文化、政治など、さまざまな問題を考えます。
14)アジアの市場から地産地消を考える(小坂康之)
 現在、日本のスーパーマーケットで販売される食料品の多くは、遠い外国から運ばれてきたものです。一方で、食料自給率の低下に対する懸念や、食の安全性に対する関心の高まりから、地域で生産された食料を地域で消費する「地産地消」の取り組みが注目されています。そこで、アジアの市場に並ぶ産物や農村の暮らしを紹介しながら、地産地消について考えます。

【期末試験】:各担当教員が1題ずつ出題する問題のなかから2つを選び、論述形式で解答する試験を実施します。

15)フィードバック
Evaluation Methods and Policy  毎回の講義の最後に出席確認を兼ねたアンケート調査を実施する(評価には含めない)。授業参加度40点、期末試験60点で成績を判定する。
Course Requirements None
Study outside of Class (preparation and review)  講義の中で文献・図書を紹介するので、自学自習に役立ててほしい。
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