ILAS Seminar :How have we described ourselves historically?

Numbering Code U-LAS70 10001 SJ50 Year/Term 2022 ・ First semester
Number of Credits 2 Course Type seminar
Target Year Mainly 1st year students Target Student For all majors
Language Japanese Day/Period Mon.5
Instructor name TAKEZAWA HIROYUKI (Graduate School of Economics Associate Professor)
Outline and Purpose of the Course テーマ:日本人の枠組みと自画像の歴史的変遷を探る

 この授業では、日本人とはいかなる存在であると日本人自身が思ってきたのかについて考えたいと思います。まず手始めに、次のような質問を投げかけられた場面を想像してみてください。それは、「日本人であることを証明してください」と問われたときにどのように返答するのかというものです。日本のパスポートを持っている人は、それを提示するという方法があると思います。しかし、パスポートを持っていない人はどうしたらよいでしょうか。この困難は、簡略に言うならば、明確に国民の要件や、それになるための条件や試験がある国、つまり手続き的に国民を定義している国では直面することが少ない問題です。なぜなら、そのような国では、その国民であることを証明する書類を所持してるのが普通だからです。ここで皆さんに考えてほしいのは、これは法的な手続き(制度設計)の話だけですむのかということです。
 さてここからが本題です。上記の問題は、基本的には、確かに法的な手続きに関するものですが、それを基底的に支えるのは、日本人が自分たちをどのような集団であるとみなしているかという自己規定(自画像)です。島国という地理的条件は、上記のような、人工的に国民を定義することを一般化するには至りませんでしたが、日本人が日本人のイメージを全く共有していなかったわけではありません。あいまいで時に変化する内容であったとしても、日本人に関する一定のイメージを持っていました。
 しかしながら日本人の名のもとに、もともと別の国の人だった人たちを編入させる場合(第二次世界大戦が終結するまでは実際の政治課題でしたが、植民地を持つことが倫理的・道徳的にどのように評価されるべきかは別の重要な問題です)では、何をもって日本人とするのかをより明確に設定する必要が出てきます。また、もともと日本という領域に含まれてきた地域でも、文化的、身体的な特徴が、「標準的」と思われる日本人と異なる場合(例えば沖縄や東北など)、このあいまいな日本人のイメージが様々な差別問題を引き起こすこともありました。一見して「日本人らしくない風貌」を持つことが、いじめや差別につながることもあるのです。そして「日本人らしい」ことと、実際に日本人であることはどのように関連するのかも明確でない部分があります。
 以上のような問題が、政治上の問題になったことは歴史上、何度もありましたが、その時に問題視される表現・認識として、「単一民族としての日本人」というものがあります。このような実態が歴史上、妥当性をどのくらい持つのか自体も重要な論点ですが、それを否定するにしろ肯定するにしろ、まずは、「単一民族としての日本人」という言い方と発想がどのように形成されてきたのかを理解することが、しっかりとした議論をする前提として不可欠に思います。
 テクストとする書籍は、この問題を扱った好著です。固有名詞がたくさん出てくるので読むのに苦労する側面があると思いますが、毎回の授業では、日本人の自画像に関する歴史的変遷をひとつひとつ検討していきながら、そこに包摂されている様々な考え方や問題点を議論していきたいと思います。
 以上のように書くと、「私は留学生で日本人じゃないから対象外のゼミ」と思うかもしれません。そのようなことはありません。ある国民のイメージ形成に関する問題についての真摯な検討は、世界中の国々で起こっている、民族紛争と呼ばれる問題、高度に独特な地域文化を持つ領域の問題、そしてさらに民族や国・国家とはどのようなものなのかという理論的な問いなどを考える上でも、非常に有益な展望を与えてくれます。ですから、このような話題に興味があれば、OKです。世界の民族問題や移民問題、そして入国管理政策にかかわる問題などを考えたい人にも積極的に議論に加わってほしいと切に願っています。
 以上のような目論見のもと、少人数の親密な空間で、楽しく、そして知的刺激にあふれた議論を行えるような工夫を担当者としてはしたいと思っていますし、参加する皆さんにも同じような配慮と努力をお願いできれば幸いです。
 また精読が一区切りした時には、授業のテーマにかかわる映画やドキュメンタリーを視聴し、議論を深めたいと思います。
 日本人の定義、戦前の日本人論の変遷とその内容、他者を映し鏡にして自らを規定する心理的メカニズム、植民地を持った時代の日本の人種論の多様性などに関心のある皆さんの積極的な参加を楽しみにしています。
Course Goals この授業では、受講生がこれからの大学生活(やその後の社会生活)で必要な以下の基礎的能力を養うことを目的としています。
1.【文献読解能力】人文社会科学の基礎的文献を読みこなす能力を身に着けること。
2.【対話能力】他者の異論との接点を探りながら議論を進められるようになること。
3.【説明能力】自分自身の意見や解釈を明快に提示できる能力と技術を身に着けること。
4.【調査能力】ゼミでの主題に関して関連事項を的確に調査できるようになること。
Schedule and Contents 授業の状況によっては、内容を変更するが、概略として以下のように進めます。

第一回:イントロダクションと参加者による自己紹介など

第二から六回:テクストに関する議論

第七回:関連するDVDの視聴とそれに関する議論

第八から十二回:テクストに関する議論

第十三回:関連するDVDの視聴とそれに関する議論

第十四回:残された論点に関する議論

第十五回:フィードバック
Evaluation Methods and Policy ①ゼミナールへの10回以上の出席(この基準を満たさないと、レポートを提出しても単位認定されません。)
②討論への積極的参加と、議論の要点と論点をまとめたレジュメの担当(50%)
③期末レポート(50%)
 なお、②と③については、到達目標の達成度に基づき評価します。またレポートの形式や課題に関するより詳しい情報は、授業において明示します。
Course Requirements None
Study outside of Class (preparation and review)  授業は文献の精読と議論が柱ですので、日常から、文献読解能力と対話能力とを鍛えるように心がけてください。
 また毎回の授業で用いる素材(書籍の特定部分)については十分に咀嚼して、論点を事前に考えてきてほしいと思います。そして報告を分担する回には、当該書籍のまとめと論点やコメントなどを明確に記載したレジュメを作成してきてください。
Textbooks Textbooks/References 単一民族神話の起源―「日本人」の自画像の系譜, 小熊英二, (新曜社、1995年), ISBN:9784788505285, ちょっと値段が高いので、古本でも全く構いませんので可能であれば購入してください。難しい場合は、学内図書館のいくつかが所蔵していますので、借りてください。いずれも難しそうであれば、担当者までメールで相談してください。
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