Reading German Literary Arts and Representation A

Numbering Code U-HUM16 21181 SJ48
U-HUM16 21181 SJ36
Year/Term 2022 ・ First semester
Number of Credits 2 Course Type Seminar
Target Year From 2nd to 4th year students Target Student
Language Japanese Day/Period Thu.5
Instructor name MATSUNAMI RETSU (Part-time Lecturer)
Outline and Purpose of the Course ショーペンハウアーの『意志と表象としての世界』第2版(1844)の第2巻第15章を「精読」します。この章の叙述はこの人の境涯にあったものを極めて平明に提示している特異な章であり、この人が人間の意識と認知能力にいかに多大な関心を寄せていたか、いや関心を寄せていただけでなく、現代科学も舌を巻くであろう見事な分析力でもって認知(cognition)の能力すなわち無能力、ヒトの認知がどれほど素晴らしいかではなくそれがどれほど脆弱で限定的で偏向したものであるかを精確無比に把握していたかを明示している章です。つまり、この人が、こんにち最も重要な学術分野である認知心理学や行動経済学や社会心理学などがもたらす知の営為、「認知科学」というものの先駆者であったことが明らかになります。
この章は、認知は継時的・順次的情報処理しかできないと確言するところから始まります。ショーペンハウアーは、意識的情報処理がsuccessive(シーケンシャル)なものであって複数対象を同時並列的に処理することができないということ、逐次的で直列的な動きがその本質であってマルチタスクが不可能であること、乏しいワーキングメモリに依拠した卑小で局限的なものであることを理解しており、現在の科学がコントロールされた実験下で明らかにすることになる知見を次々に披露してゆきます。とりわけ、選択的注意(selective attention)、自我消耗(ego depletion)、希望的観測(wishful thinking)といった事柄に、近現代心理学成立以前の時点ですでに明確に気付いていました。
このような、文献学の醍醐味に満ちた第15章のドイツ語原文を読むことがこの授業の概要と目的です。
Course Goals 他のいかなる文献学の対象と同様ドイツの思想も、このように読むという定式や定石が出来あがっており、それを追認し「伝統」の確認作業を繰り返すのが研究だと考えられています。したがってショーペンハウアーは(世界)苦を憂えて仏教に答えを訪ねた厭世のニヒリストでなければならないことになってしまいます。その「表象」と「意志」はいわく言い難い意味不明な有難いナニカでないといけないわけです。わかりやすいドイツ思想はありがたくなくドイツ思想ではないわけです。その「意志」というのをショーペンハウアー自身が現在の生物学文脈における遺伝や種保存のようなものと考え、大脳が大脳の内部で世界知覚をループさせる構造という現代の知見に酷似したものを「表象」と言っていたようだという検討の可能性など棄却され禁止されるわけです。
しかし当然ながら発展やイノベーションは、今述べたような「今までに結合したことのなかった項Aと項Bを結合させる」というフュージョン作業によって起きます(一方追認は追認しか生まない)。そういった「思想」力の基礎を身に着けることを目標とします。つまり、ショーペンハウアーの研究、典型的にはその翻訳、翻訳という名の辞書翻訳の日本語、日本語で語ってしまっているショーペンハウアー、そういった事柄に囚われないで、虚像かもしれない伝統的解釈・受容を一旦棚上げしたうえで、この人のドイツ語が実際には特に何を語り何を訴えようとしていたのか、この人には何が見えていたのか、自分にとってこの人はどのようなものとして見えて仕方がないのか、一般的な受容が押し付ける期待からこの人を解放したら何が見えるのだろうか、といったことを模索します。
そうして、つまりは、「自分の眼で読む」「自分のアタマで考える」ということの基礎力を身に着けることを目標とします。
Schedule and Contents 計画としては、第15章という章を丸ごと1つ読み終えることを一応の目標としますが、初回オリエンテーションの時点で受講者の傾向を確認した上で具体的な計画を決めていきます。
したがって、ここに記す計画は、あくまでも暫定的なものです。
第1回目:オリエンテーションと導入。
第2~6回:『意志と表象としての世界』と選択的注意(selective attention)。見えているものは見えていない。
第7~10回:『意志と表象としての世界』と自我消耗(ego depletion)および意識の覚醒段階説。デーヴ・グロスマン、赤の状態、トンネル視野、聴こえない銃声。
第11~12回:『意志と表象としての世界』と希望的観測(wishful thinking)および諸々の認知バイアス。
第13~14回:『意志と表象としての世界』の補足となるニーチェの認知科学、総括、ディスカッション。
<定期試験>
第15回 フィードバック
Evaluation Methods and Policy 平常の取り組み姿勢を評価します(70%)。読解力や語学の向上はもちろん目標とはしていますが、それらは半年だけで飛躍的に向上するものではありません。しかし、テキストから自分なりに何かを汲み出そうとする作業を体験することは、体験したなりの成果があるでしょう。期末試験(30%)を予定していますが、そのような最後の日のペーパーですべてが決まるということでは到底ございません。
Course Requirements ドイツ語の文献を読みますが、ドイツ思想に通じている必要は特にありません。それは、自由な発想を求めるからです。
とはいえ、まったく予備知識を備えようともしないで丸投げの姿勢で勉学に臨まれるのはご遠慮ください。
ショーペンハウアーも『意志と表象としての世界』もそれらに関する一般的な知識もほとんどないという方を拒むというのではもとよりありませんが、ただ、それらを知ろうとしないでただ出席だけされるというのでしたら、ご自身の不利益となることでしょう。
というより、出席者の積極的な姿勢、学びたいという意欲を特に評価します(そういう意欲があるのならばそもそも予備知識のための自主的学習は当然するはずです)。その意味では、ドイツ語を知ってさえいなくても出席してもらってかまいません。そういった方には便宜を図ります。
Study outside of Class (preparation and review) コピーで配布する文献の読解範囲を毎回予習してもらいます。
References, etc. 木村・相良 独和辞典 (新訂), 相良守峯, (博友社,1994), ISBN:9784826800013, もし辞典を購入されるというのならこれというものです。用意しなければならないものというのではありません。
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