5236004History of Western Philosophy (Special Lectures)

Numbering Code G-LET04 65236 LJ34 Year/Term 2022 ・ Intensive, Second semester
Number of Credits 2 Course Type special lecture
Target Year Target Student
Language Japanese Day/Period Intensive
Instructor name CHIBA KIYOSHI (Part-time Lecturer)
Outline and Purpose of the Course 哲学的テクストを十分に理解するためには、ただ漫然と読んでいるだけではダメである。要所要所で読解のための「補助線」を引き、また適切な解釈的問いを立てていくことが必要だ。(《仮説を立て、検証する》という手続きは文献解釈でも必要なのだ。)さて、適切な解釈的問いを立て、「正しい」解釈に到達するためにはどのようにしたらよいのか?
本講義で私は、特にイマヌエル・カント(著)『純粋理性批判』「純粋理性のアンチノミー」(以下「アンチノミー論」と略記)を題材とし、初学者が、どのような点に注目し、そしてどのような解釈的問いを立てていけば、テクストをより深く/明瞭に理解することができるようになるかを示したいと思う。
本講義は、いわゆる「アクティブ・ラーニング」の方式で行なわれる。すなわち、たんに講師が一方的に情報提供を行う、というやり方ではなく、履修者のみなさんに実際に当該テクストを読み、試行錯誤し、議論してもらう(おそらく小グループをいくつか作り、議論することになるだろう)。その点で、本講義は、通常の「講義」というよりは「実習」に近い。私の助言を参考にしつつ、実地に解釈実践を積むことで、解釈スキルを養成することこそが、本講義のねらいである。
なお、時間的制限により、本講義ではアンチノミー論の全てを扱うことはしない。検討対象となるのは次の箇所である:第一節、第二節(特に第一アンチノミー)、第六節、第七節、第九節(特に数学的アンチノミーの解決(A532/B560まで))。また、最終日には、アンチノミー論と類似の論証構造を持つ『純粋理性批判』第一版「第四パラロギスムス」の解釈の実践を通じて、各自の解釈スキル向上の達成度を確認する予定である。(ただし、履修者のレベルに合わせて、進度は柔軟に変更していく。)
本講義は、カント哲学についての基礎知識を持っていない――が学習意欲はある――学部生がついていけるようなレベル設定にするが、大学院生であっても、さらには『純粋理性批判』を専門とする研究者であってすら、十分学ぶべきことがあるような内容となるはずである。(とりわけ4日目の講義では、かなり高度な内容を扱う。)大学院生の受講者は、毎回の課題をこなすことに加え、私が提示する解釈にも批判的な検討を加えることで、自らの議論構成力を向上させるよう努めていただきたい;そのためのアドバイスは積極的に行ないたいと思う。意欲あるみなさんの参加を期待する。
Course Goals 本講義を最後まで聴講するなら、結果的に、アンチノミー論全体についてのかなり明瞭な理解が得られることだろう。しかし、本講義の眼目はむしろ、解釈スキルの養成にある。すなわち、テクスト読解に際して、履修者のみなさんが自分自身で適切な解釈的問いを立て、自ら解釈の精度を高めていけるように「なる」ことこそが、本講義の目標である。
また、大学院生の参加者はさらに、本講義を通じて、自発的にさまざまな解釈的問いを立て、それらを自分の目的に合わせて使い分ける手法を学び取ってほしい。この技能は論文執筆――特に修士論文や博士論文――にあたって、その全体の論証構成を設定(して論文全体のねらいを明確化する)ために重要となることだろう。
Schedule and Contents [1日目] 読解のための着手点を築き上げる
事前課題:アンチノミー論(のうち本講義で扱う箇所;上述)を各自で読み、そこで展開されている議論を自分が現時点で可能な限りで明瞭にまとめてくる;レジュメを持参することが望ましい。また、第2回・第3回講義で検討するので、特にアンチノミー論第一節と第六節を詳しく読んでくること。
*この段階で十全な解釈を提示できる必要はない。この課題の眼目は、現時点での、みなさんの理解を確認することにある。(これについては以下の課題でも同様。)
第1回:履修者間での相互発表を行い、各自が現時点でどこまでの理解を持っているかを確認する/読解上の基礎知識の解説(1)〔『純粋理性批判』概説/「アンチノミー」とは何か〕
第2回:読解上の基礎知識の解説(2)〔アンチノミー論の『純粋理性批判』全体における体系的位置/認識能力(感性、悟性、理性、(継起的)綜合、等々)についてのカントの理説/中心概念「条件の系列Reihe der Bedingungen」(第一節);他にも基礎知識についての質問があれば受け付ける〕
第3回:解釈上の補助線の提示(1)/アンチノミー論理解のカギとなる「超越論的実在論/超越論的観念論」について(第六節)

[2日目] アンチノミー論第七節(アンチノミーの一般的解決)の読解
事前課題:前回講義で提起された解釈上の補助線に留意しつつ、第七節を各自で読み、そこで展開されている議論についての自分の理解をまとめてくる;レジュメ持参が望ましい。
第4回:相互発表を行い、各自が現時点でどこまでの理解を持っているかを確認する
第5回:第七節の解釈上の問題提起/統一的解釈の提示
第6回:解釈上の補助線の提示(2):アンチノミー解決の観点からアンチノミー導出(第二節)の議論を振り返るとどうなるか?

[3日目] アンチノミー論第二節(諸アンチノミーの導出)の読解
事前課題:前回講義で配布する論文(15頁程度;日本語)を参考にしつつ、第二節の特に第一アンチノミーの導出の箇所を読み、定立・反定立の証明についての自分の理解をまとめてくる;レジュメ持参が望ましい。
第7回:課題の相互発表/アンチノミー導出の統一的構造の把握
第8回:アンチノミー導出&解決の統一的構造――すなわちアンチノミー論の全体像――の把握
第9回:(1)問いの変更:アンチノミー論そのものの理解ではなく、超越論的観念論の主張内容の解明を主眼とするように解釈的問題設定を変更したらどうなるか?(自分の意図や目的に合わせて解釈的問いを変更する仕方を学ぶ)/(2)次回のための問題提起:カントの超越論的観念論によるアンチノミー解決によれば、条件の系列は有限でもなければ実無限でもない;それは可能無限である。さて、条件の系列が「可能無限である」とはどのようなことなのか? ここには、たんに「可能無限」という語の意味を調べればよい、というだけではすまない重大な問題が存する。この問題について予告的に紹介し、次回への準備とする。

[4日目] カントのアンチノミー解決を深掘りする
ねらい:現代の分析哲学や数学の哲学の道具立てを援用することによって、ただテクストを読んでいただけでは出てこないような新たな解釈的問いが立てられるようになり、このことを通じてテクスト解釈をさらに深めていくことができることを体験する。
事前課題:前回講義の問題設定を参考にして、アンチノミー論第九節の、とりわけ第一アンチノミーの解決の箇所(A517-523/B545-551)を読み、その内容についての自分なりのイメージを作っておく;レジュメ持参が望ましい。また、「実無限/可能無限」の区別についてインターネット等を用いて簡単に調べてくること。
第10回:課題の相互発表/カント解釈上の問題/「可能無限」概念そのものをめぐる問題
第11回:直観主義数学を導きの糸として、可能無限の最初のモデルを得る
第12回:次回のための問題提起:(1)直観主義数学から得た成果を(カントの超越論的観念論が扱う)経験的領域に適用しようとする際に生じる問題の紹介(monotonicity, publicness, defeasibility)。(2)『純粋理性批判』第一版「第四パラロギスムス」は、アンチノミー論と非常によく似た論証構造を持っている。この箇所の解釈の実践を通じて、今までの学習成果を確認する。

[5日目] これまでに学んできたスキルを活用してみる
事前課題:今までの講義内容(とりわけ、解釈上の問いの立て方)を参考にして、第一版「第四パラロギスムス」を各自で読み、そこで展開されている議論を可能な限り明瞭な仕方でまとめた発表レジュメを作成して持参する(自分用と提出用の2部;成績評価に使用する)。
第13回:直観主義数学から得た成果を経験的領域に適用する際の諸問題の解決のアウトラインを紹介
第14回:課題の相互発表/各自の解釈スキルがどの程度向上したのかを確認
第15回:第一版「第四パラロギスムス」の統一的解釈/超越論的観念論をめぐる解釈上の問題の提示/全体の総括
Evaluation Methods and Policy (1) 第1~4日の事前課題:それぞれ10%(計40%)
(2) 第5日の事前課題:20%
(3) 講義中の議論(グループ/全体ディスカッション)への貢献:40%
Course Requirements 特に設けない。すなわち、『純粋理性批判』の基礎知識を持っている、といったことを履修要件とはしない。ただし、毎回の課題をこなす――そのためには少なくとも、自分自身でカントのテクストを読む必要がある――用意と覚悟のある人のみ本講義を受講していただきたい。
Study outside of Class (preparation and review) 上述の、毎回の事前課題を着実にやってくること、そして何よりも、『純粋理性批判』の当該箇所を自分自身で読み込んでくることが必要となる。とりわけ、最初の二日分の事前課題のために読むべき分量は多いので、これらに関しては講義開始前に準備しておくことをお勧めする。(実際のところ、第1日目・2日目の課題のための準備を事前に十分に済ませておけば、第3日目以降の課題のために必要となる時間はそれほど多くはならないはずだ。)
また、『純粋理性批判』についての基礎知識は履修のための必要条件ではないが、あれば本講義をより有意義にできることは間違いない。上述「参考書」の「入門書」に挙げてある文献のほか、各自でいろいろと模索してみるとよいだろう。
Textbooks Textbooks/References イマヌエル・カント,『純粋理性批判』―― どの訳でもかまわないので、入手すること。(岩波文庫(篠田訳)、光文社古典新訳文庫(中山訳)はお勧めしない。安価で入手可能なものとしては、『世界の大思想』シリーズ(高峯訳)がお勧め。)
講義では基本的に日本語訳を用いるが、ドイツ語原文や英訳を参考にできる人はそうすることを強くお勧めする。
References, etc. 入門書
・御子柴善之,『自分で考える勇気:カント哲学入門』,岩波ジュニア新書,2015年.(カント哲学について全く/ほとんど知らない人が全体像を理解するためにはこの本がよいだろう。)
・御子柴善之,『シリーズ 世界の思想:カント 純粋理性批判』,角川選書,2020年.(『純粋理性批判』全体の流れを理解するのに便利。とりわけ初心者が苦労する、個々のテクスト箇所の理解のために必要となる前提知識をわかりやすく説明してくれる。)
・中島義道,『『純粋理性批判』を噛み砕く』,講談社,2010年.(アンチノミー論の、特に冒頭部、第一節、第二節を詳細に解説したもの。カントによるアンチノミー導出の議論(第二節)をよりよく理解したい人は、本書にあたるとよい。)
・有福孝岳(他)編,『カント事典 縮刷版』,弘文堂,2014年.(わからない言葉が出てきたらこれで調べよう。)

研究書
・Henry Allison, Kant’s Transcendental Idealism: An Interpretation and Defense, Revised and Enlarged Edition, Yale University Press, 2004.(今日の『純粋理性批判』研究のための必読書。)
・ヘンリー・アリソン,『カントの自由論』,法政大学出版局,2017年(原著1990年).(本講義では取り扱われない、第三アンチノミーの解決に関心がある人は、本書の第I部にあたるとよい。)
・Jonathan Bennett, Kant’s Dialectic, Cambridge University Press, 1974.(本講義では取り扱われない、カントによる個々のアンチノミー導出の議論が詳細に検討されている。)
・Kiyoshi Chiba, Kants Ontologie der raumzeitlichen Wirklichkeit, Walter de Gruyter, 2012.(本講義の先にさらに何があるのかに興味がある人は、この本の第4章と第7章を見るとよい。)
・P. F. ストローソン,『意味の限界:『純粋理性批判』論考』,勁草書房,1987年(原著1966年).(「分析カント」の創始。今日でもなお啓発的な多くの洞察を含んでいる。)
*ほかの参考文献については講義中に紹介する。
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