EU法[EU Law]

Numbering Code P-LAW2064400LJ41 Year/Term 2022 ・ 後期
Number of Credits Course Type 双方向・多方向形式による。教科書、レジュメおよび配付資料の予習を前提に、質疑応答を重ねながら講義を行う。
前半を濱本が、後半を西連寺が担当する。
なお、人数制限を行う(法科大学院生の定員20名)。
Target Year 2・3 Target Student
Language Day/Period 火2
Instructor name 濵本 正太郎・西連寺 隆行
Outline and Purpose of the Course 現在、ヨーロッパでサッカー選手が契約期間満了時に移籍する場合に移籍金なしで移籍できるのも、中田英寿以降、日本のサッカー選手が続々とヨーロッパで活躍しているのも、EU裁判所のボスマン判決のためである。
また、ある種のお酒は最低でも(最高ではない)25%アルコールを含有しなければならないとのドイツ法はEU法に違反ではないかとの訴訟で、ドイツはこの法律は国民の健康を保護するためである(?)と裁判で主張し、当然敗訴した。これはEU裁判所のカシス・ド・ディジョン判決であり、EUの市場統合に関する最も有名な判決である。
サッカーやお酒に限らず、EU法は今日ではほとんどの法分野に関係しており、ヨーロッパでビジネスを行う場合はもちろん、ヨーロッパ企業と取引する場合にも、また、EU構成国の国内法を学ぶ際にも、EU法を無視することはできない。
また、EU法は、国際法でも国内法でもない法体系であり、三権分立を有さない統治機構を持ち、27カ国で一つの市場を作るという壮大な試みを支えるインフラであり、刻々と動いているダイナミックな法である。このようなEU法にふれることで、日本法を相対化して見直してみる目も養いたい。
具体的には、EU法総論について必要最低限の基礎知識を学んだ後、EU裁判所の裁判例を中心にEU実体法、特に域内市場法を学ぶ。Brexitについても議論する。
Course Goals 上記「授業内容」記載の各項目についてその内容を具体的に説明できるように理解して、上記「概要」記載の成果を得ること。
Schedule and Contents 1.EU法の手引き/欧州統合史
この授業の概要説明と打ち合わせの後、EU法の手引きとして、EU法に関する基本資料とその入手方法などを説明する。そして、今日に至る欧州統合の歴史を概観する。
2. EUの機構的構造・立法過程
EUにはどのような機関があり、それぞれどのような存在理由があるか。ヨーロッパ議会は、我々が知る国内の議会とどのように似ていて、どのように異なるか。EUではどのような法規範がどのようにして作成されるか。
3. EU法の直接適用可能性
日本の裁判所は、条約をそのまま適用することがある。なぜそれは可能なのか。EU構成国裁判所におけるEU法の適用は、それとどのように異なっているのか。EU法には様々な種類の法規範があるが、全てについて同じように国内適用できるのか。この回で扱われるのは、EU裁判所史上の最重要判決である、van Gend en Loos判決である。
4. EU法の優越性
日本法秩序において、国際法はどのような階層的位置づけを与えられているか。EU国内法秩序におけるEU法の位置づけは、それとどのように異なるか、そしてそれはなぜか。ここでは、おそらく史上二番目に重要な、Costa/ENEL判決を扱う。EU法が国内法秩序において国内法に優越するのであれば、民主主義の観点からそれはいかにして正当化可能なのだろうか。
5. EU裁判所
世界各地に存在する種々の経済統合とEUとを比べた場合、最大の相違点は裁判所の機能である。EU裁判所は、他の国際裁判所と比べて、また、国内裁判所と比べて、どのような特質を持つか。論告担当官(法務官。avocat general)とは何者か。構成国国内裁判所がEU裁判所に意見を求める先決裁定とはどのような手続か。
6. EUと人権・民主主義
EU法の直接適用可能性・優越性に見られるように、EU法秩序においては国家主権が大幅に制約されている。EU構成国は民主主義国家であり、EU自身も民主主義を標榜している。では、EU法の直接適用可能性・優越性は、民主主義の観点からどのように正当化することができるのだろうか。EU法が構成国の憲法にさえ優越するのであれば、人権保障はどのようになされるのだろうか。EUはヨーロッパ人権条約の当事者ではないが、同条約とはどのような関係に立つのだろうか。
7. EUの対外関係
構成国が有する権限が相当程度EUに以上されているのであれば、対外関係はどうなるのだろうか。例えば日本とEUとの間に条約が結ばれる場合、どの条約をEUと結び、どの条約をEU構成国と結ぶことになるのだろうか。世界貿易機関(WTO)にEUもEU構成国も参加しているのはなぜなのだろうか。
8.EUの経済統合総説・商品の自由移動(1)
ドイツ、フランス、イタリアなど各構成国の国境をそのままにしつつも、EUを国境で分けられない1つの市場にするには、どのような法制度が必要だろうか。この回以降、経済統合を目指して、商品(物)、人、サービス、資本の自由移動を確保する域内市場法を中心に扱う。この回では、域内市場法の全体像の概説に続いて、商品の自由移動に関して、関税同盟と差別的・保護的内国税の禁止を検討する。
9.商品の自由移動(2)
商品の自由移動のうち、数量制限及びそれと同等の効果を有する措置の禁止について、初期の判例を中心に検討する。
10.商品の自由移動(3)・人及びサービスの自由移動(1)
前回に続き、数量制限と同等の効果を有する措置について、その後の判例の展開を確認する。また、人の自由移動のうち、経済活動者(労働者・自営業者)を対象とした自由移動原則について考察する。サービスの自由移動についても、ここであわせて取り上げる。
11.人及びサービスの自由移動(2)・EU市民の自由移動(1)
経済活動者に関する前回に続き、EU市民一般の自由移動について扱う。マーストリヒト条約によりEU市民の概念が導入された後、経済活動者ではないEU市民一般にも自由移動が認められ、EUは経済統合のみではなく、政治的及び社会的統合へと進んでいる。この観点から、最近の判例を検討する。
12. EU市民の自由移動(2)
引き続き、EU市民の自由移動に関する判例を扱う。
13.自由・安全・司法の領域
EUは経済統合をこえて政治的、社会的統合まで進んでいる。その関係で、自由・安全・司法の領域を創設することを目的として掲げるようになっている。これは例えば、日本からドイツへ入国する際にはパスポートチェックがあるが、その後、ドイツからイタリアへ移動する際にはそのようなチェックなしに入国できることなどに表れている。この回は、この概念の内容を検討し、EUが何を目指しているのか考える。
14.資本の自由移動と経済通貨同盟
資本の自由移動とユーロに関する経済通貨同盟について、制度の概要を確認するとともに、ユーロ危機への対応の中で顕在化した法的諸問題について検討する。
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