アメリカ法[American Law]

Numbering Code P-LAW2064300LJ41 Year/Term 2022 ・ 後期
Number of Credits Course Type 講義形式で行うが、質問を歓迎する。
Target Year 2・3 Target Student
Language Day/Period 金3
Instructor name 勝田 卓也
Outline and Purpose of the Course  この講義では、英米法・アメリカ法の基本的な知識を習得した上で、判例法の思考方法や現代的な諸問題を理解するために重要な歴史的事象、そして法制度の全体像を把握することを主たる目標とする。その上で、法と裁判所が社会の中で非常に大きな役割を果たしているとされるアメリカ法の興味深い側面を具体的事例に則して検討する。手厚い身分保障の与えられた裁判官が政治部門から独立して法的正義を実現するというのが違憲立法審査制度の基本的な考え方であり、アメリカの最高裁は政治的少数者・社会的弱者ー典型的には黒人ーの権利を擁護する判決を下してきたというのである。しかし、このような見方は近年挑戦を受けている。最高裁にアメリカ社会を基本的に変えるような力はあるのであろうか?最高裁は分断された少数者を救済する力を持つのであろうか?リベラルな裁判所の判決はむしろ政治の保守反動化を促すのではないだろうか?こうした問題を設定して、人種問題を具体例としてアメリカ法の実像を理解するのがこの授業の課題の一つである。
また、陪審制度や司法の独立(司法権の優位)など、アメリカ法のうち、日本人には理解しにくい側面に焦点を当てるが、同時に、こうした、外国法のうち日本法とは異なる独特な部分に焦点を当てることが、日本の法制度と法にかかわる問題についてどのような意味を持つのかを考えたい。これがもう一つの課題である。
Course Goals 上記「授業内容」記載の各項目についてその内容を具体的に説明できるように理解して、上記「概要」記載の成果を得ることである。
Schedule and Contents  各回ごとに以下のテーマを取り上げる。
(1)英米法を学ぶ意義
日本の法科大学院において英米法を学習する意義はどこにあるのか。英米法の知識が日本法の理解と実践にどのように関わっているのか。
(2) 英米法の歴史と基本的特徴
英米法の核心であるコモン・ローの歴史は中世イングランドに遡る。コモン・ローはどのようにして形成されたのか。コモン・ローは社会の変化にどのように適応してきたのか。
(3) 判例法主義
英米判例法の最重要原理である先例拘束性の原理を学ぶ。英米において裁判官は先例を尊重する法的な義務を負う。イギリスとアメリカにおける先例拘束性の原理のあり方を検討する。
(4) 先例変更に関わる理論的問題
英米においても先例の変更はある。遡及的適用など、先例変更に関わる理論的な問題を検討する。
(5) 司法制度
英米では法曹一元が採用されているほか、その司法制度には日本とは根本的に異なるいくつかの特徴がある。英米における司法制度と法学教育を概観する。
(6) 陪審制度:その1
一般市民の中から無作為に選出された陪審員が、裁判官から独立して事実認定を行う陪審制度は、英米法の際立った特徴である。陪審制度の基本的な特徴と問題点を検討する。
(7) 陪審制度:その2
イギリスで陪審審理の縮小傾向が見られるのに対して、アメリカでは民事、刑事共に広く陪審裁判が行われており、陪審に強い信頼が寄せられている。アメリカにおける陪審への信頼の背景にはどのような事情があるのか、陪審の手続と歴史を参照しつつ検討する。
(8)陪審制度:その3
アメリカの陪審制度は、日本における司法制度改革審議会において議論の対象となり、裁判員制度の制度設計に一定の影響を及ぼした。その議論はどのようなものであったのか。裁判員裁判と陪審裁判はどのように違うのか。裁判員裁判は日本の刑事司法、とりわけ殺人事件の処理にどのような影響を与えたのであろうか。
(9) アメリカ憲法の基本的構造
合衆国憲法の基本的な構造、特に人権保障の仕組みを学ぶ。連邦制の下では、どのような構造によって基本的な人権が保障されるのか。建国当時から現代に到るまでの歴史を踏まえた上で、憲法上の構造を理解する。
(10) アメリカにおける違憲立法審査権の確立
アメリカにおいて違憲立法審査権を確立したとされる1803年のマーベリ対マディソン事件判決を検討する。アメリカの連邦最高裁は今日では違憲立法審査権を活発に行使しているが、その端緒とされるマーベリ判決の実像を探り、法と政治の関わり合いを理解する。
(11) 連邦の一体性と司法部門
19世紀半ば、米国は奴隷制をめぐり分裂の危機を迎える。最高裁は1857年のドレッド・スコット事件において南部奴隷州の利益を擁護する党派的な判決を下したとされる。国家分裂の危機に際して、司法部門はどのような役割を果たすべきなのか。
(12) 再建期の法的課題
南北戦争後の米国南部では、広く人種分離制度が行われていた。法の平等保護を保障する合衆国憲法の下で、人種分離制度が容認されるのか。連邦政府は解放された黒人の権利を保護するために何をなすべきなのか。19世紀末の公民権事件判決やプレッシー対ファーガソン判決等を検討する。
(13) ブラウン判決:その1
最高裁は1954年のブラウン対教育委員会事件判決において先例を変更し、人種別学を違憲とした。この先例変更はいかにして可能となったのか、ブラウン判決はいかなる意味で重要であったのか。米国最高裁の200年を超える歴史のなかでも記念碑的な地位を占めるブラウン判決を総合的に検討する。
(14) ブラウン判決:その2
ブラウン判決によってアメリカの人種問題は解消されたのか。逆に、人種問題のみならず、アメリカ社会のあり方にネガティブな影響を与えはしなかったであろうか。最高裁は単独でアメリカ社会を大きく変えるようなことができるのであろうか。
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