民法総合1[Civil Law (Advanced) I]

Numbering Code P-LAW2062220LJ41 Year/Term 2022 ・ 前期
Number of Credits Course Type 双方向・多方向形式
Target Year 2 Target Student
Language Day/Period 月5
Instructor name 吉政 知広
Outline and Purpose of the Course 民法典は、パンデクテン体系にしたがって編成されているため、契約法に関する規定は、民法総則・債権総則・契約総則・契約各則に点在している。本講義は、それらの規定に関する基礎的な知識を修得していることを前提として、契約法に関する主要な問題を「契約の成立・当事者・履行・履行障害・終了」というプロセスに編成しなおし、法律問題を解決するための実践的な能力を養うことを目的とする。その際、「民事訴訟実務の基礎」の講義と平行しながら、当事者の主張を要件事実の観点から構成するための指導もあわせて行うこととする。
Course Goals 上記「授業内容」記載の各項目についてその内容を具体的に説明できるように理解して、上記「概要」記載の成果を得ることである。
民法関係の基礎科目と基幹科目を通じての到達目標については、別に掲載する「京都大学法科大学院の到達目標」(民法)のとおりである。
Schedule and Contents 1.契約の締結と合意の瑕疵
契約の成否、内容の確定、その有効性に関する問題は、現実の場面では、しばしば連動したかたちで登場するほか、債務不履行責任などの前提問題となることが多い。本講義では、契約締結過程で、両当事者の意思ないし期待の間に齟齬が生じているケースを題材としながら、契約の成立要件、契約解釈と錯誤・詐欺の問題との交錯問題を取り上げ、それぞれの要件事実を踏まえながら、その基礎にある理論問題についての理解を深めることとする。
2.代理による契約の締結
契約の締結に際しては、当事者だけでなく、代理人など第三者が介在することがしばしばある。そこでは、誰が契約当事者であるか、介在する第三者がどのような権限をもっているかということがまず問題となるが、その前提として代理法の構造を正確に理解していなければ、現実の事案に対処することは不可能である。本講義では、そうした観点から、要件事実を踏まえつつ、有権代理、無権代理、表見代理にかかわる問題を的確に処理するための実践的な能力を養うこととする。
3~4.契約の履行と受領障害
契約の履行過程では、債務者が弁済しようとしても、債権者がそれに協力しないため、弁済が完了しない場合がしばしば発生する。そこでは、債務者の責任のほか、履行コストの負担、その後債務を履行できなくなるリスクのほか、協力しない債権者に対する責任追及など、一連の複雑な問題が発生する。本講義では、こうした受領障害の場面を取り上げ、特に弁済の提供と受領遅滞をめぐる諸問題を相互に関連づけつつ、要件事実を踏まえた正確な法律構成を行う能力を養うこととする。
5.契約の履行不能と解除・危険負担
契約の履行過程では、一方の債務が履行できなくなる場合が発生しうる。この場合は、相手方からの履行請求をどのようにして拒絶するかという問題のほか、その反対債務がどうなるかという問題が発生する。そこでは、履行不能と危険負担に関する問題のほか、さらに解除の可能性も問題となってくる。本講義では、売買および請負について、これらの制度が機能的に交錯する場面を取り上げ、相互の関係に関する理論的な問題について理解を深めつつ、要件事実を踏まえた正確な法律構成を行う能力を養うこととする。
6.契約不履行による損害賠償責任Ⅰ
契約で定められた履行期に債務が履行されないという事態は、さまざまな理由から生じる。特に契約を締結した後になって想定外の事情が生じたことから、債務者が債務の履行を拒絶する場合は、はたして債務者に契約不履行にもとづく責任が認められるかどうか、どのような場合に債務者は免責されるのかをめぐって、さまざまな問題が生じる。本講義では、そうした契約不履行による損害賠償責任の要件に関する問題のほか、さらにその場合に認められる損害賠償の範囲・額の確定に関する問題を、特に理論面の対立が要件・効果にどのように反映するかという観点から取り上げることにする。
7.契約不履行による損害賠償責任Ⅱ
契約上の債務が本旨にしたがったかたちで履行されない場合としては、不完全履行・積極的債権侵害も考えられる。ここでは、債務の内容に応じて、何が不履行であり、また何が帰責事由かということも違ってくる可能性がある。そのほか、不完全な履行の結果、相手方の生命・身体・財産に損害が生じれば、不法行為責任とも交錯してくる。本講義では、それらの問題を総合的に取り上げ、相互の異同・関係に関する理論的な問題について理解を深めつつ、要件事実を踏まえた正確な法律構成を行う能力を養うこととする。
8.売主の契約不適合責任
売買契約について、改正前の民法では、目的物に瑕疵がある場合に、売主の担保責任が問題とされてきた。そこでは、従来の法定責任説に対し、学説上は契約責任説が有力に主張され、近時の国際的傾向も、契約責任説の方向にあった。2017年の改正では、基本的にこのような考え方にしたがい、契約不適合責任として規定が整備された。本講義では、こうした観点から、改正法の意味について理解を深めることとする。
9.請負人の契約不適合責任
改正前の民法には、請負契約において仕事の目的物に瑕疵がある場合について、請負人の担保責任を定めた特則が置かれてきた。そこでは、修補および損害賠償の要件・効果に関してさまざまな問題が生じていたほか、土地工作物についてはさらに特別な取扱いとその当否が問題とされていた。これに対し、2017年改正では、こうした特則の多くが削除され、債務不履行の一般原則の解釈に委ねられる部分が多くなった。本講義では、売買の場合と対比しながら、請負人の契約不適合責任に関する諸問題を総合的に取り上げ、改正法の意味について理解を深めることとする。
10.賃貸借における契約当事者間の法律関係
賃貸借契約において、賃貸人は目的物を使用・収益させる義務を負い、賃借人は賃料を支払う義務を負う。本講義では、目的物の一部の使用・収益が不可能になった場面を取り上げて、こうした賃貸借契約の当事者の権利義務に関して検討を行ない、要件事実を踏まえた正確な法律構成を行う能力を養うこととする。
11~12.賃貸借における契約当事者の変動
契約当事者が変動する場合は、しばしばきわめて複雑な問題が発生する。特に賃貸借関係では、物権関係と債権関係が交錯することから、民法全体の基本構造に関する正確な理解が要求される。そこで本講義では、ここまでの講義のいわば応用問題として、賃貸借契約の当事者が変更する場合を取り上げ、民法全体に関する体系的・理論的な理解を確認しつつ、要件事実を踏まえた正確な法律構成を行う能力を養うこととする。
13~14.契約関係と不当利得
契約の存在を前提として給付が行われた後に、契約が不成立ないし無効であることが判明した場合には、行われた給付の清算が問題となる。そこでは、契約の成立に関する諸問題とともに、不当利得の成否とその効果に関する一連の複雑な問題が出てくる。2017年改正では、民法総則に、不当利得の類型論にしたがった給付利得に関する規定が新設されたため、その理解のほか、他の不当利得の類型についても、どのように考えるべきかが問題となっている。本講義では、契約関係の応用問題として、給付利得をめぐる諸問題を中心に取り上げ、不当利得法に関する理論的な理解を深めることとしたい。
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