刑法の基礎2[Criminal Law (Basic) II]

Numbering Code P-LAW2051120LJ41 Year/Term 2022 ・ 後期
Number of Credits Course Type 双方向・多方向形式と講義形式を併用する。
Target Year 1 Target Student
Language Day/Period 金4
Instructor name 塩見 淳
Outline and Purpose of the Course 刑法の適用に関する基本的知識および解釈論的技術を修得し、基幹科目としての「刑法総合1・2」におけるより深い議論のための基盤を構築することを目的としている。刑法典を中心とする重要な刑罰規定を取りあげ、判例・学説の状況を正確に理解してもらうとともに、体系的あるいは問題解決的観点からの検討を加えて、その問題点を明らかにする。
「刑法の基礎2」では、「刑法の基礎1」で扱わなかった「共犯」と、殺人や強盗といった個別の罪の成立要件を検討する「各論」の分野を取りあげる。
なお、「法律基礎科目演習」との連携を考慮して、「各論」は財産犯から講じることとする。
Course Goals 上記「授業内容」記載の各項目についてその内容を具体的に説明できるように理解して、上記「概要」記載の成果を得ることである。
「刑法」関係の基礎科目と基幹科目を通じての到達目標については、別に掲載する「京都大学法科大学院の到達目標」(刑法)のとおりである。
Schedule and Contents 1.正犯・共犯の概念
複数の者が犯罪遂行に関わる形態を「共犯」という。「正犯」との相違はどこにあるのか、共犯が処罰される根拠は何かなどの理論的問題を取りあげるとともに、判例および学説の分析を通して共犯の成立する範囲・要件は何かを具体的に明らかにする。
2.共犯論の諸問題
共犯では、犯罪遂行の途中で加わったり、離れたりする者や一方が知らないうちに遂行に協力する者も出てくる。それらの者の責任はどこまで及ぶのか。過失犯や不作為犯を共犯により遂行することはできるのか。一部の者だけに犯罪遂行に必要とされる人的要素(身分)がある場合、他の共犯者はどのように扱われるのか。単独犯では見られない、共犯に固有のこのような問題を考察する。
3.財産犯総論・窃盗罪
「財産」の侵害を処罰する規定は多数にのぼる。財産犯全体を体系的に概観したのち、古典的で最も基本的な類型である窃盗罪の分析を行う。その際、他の財産犯とも共通する、保護法益として財産概念、財物の意義、占有・所持の意義、本権説と所持説、不法領得の意思などの諸問題も検討する。不動産侵奪罪についても解説する。
4.強盗罪
236条に規定される強盗罪の基本類型について、その成立要件に関する判例・学説の分析を行ったのち、加重類型である強盗致死傷罪、窃盗犯人が逮捕を免れるために暴行を振るうなどの事態を捕捉する事後強盗罪についても検討する。強盗予備罪、昏睡強盗罪についても概観する。
5.詐欺罪・恐喝罪
詐欺罪の成立要件である、「欺く行為」や「錯誤に基づく交付・処分」のほか、財産的損害の要否(権利行使と詐欺・恐喝の問題を含む)について、判例・学説の状況を説明したのち、クレジットカードの不正使用、訴訟詐欺などの応用問題も取りあげて検討する。恐喝罪、電子計算機使用詐欺罪についても解説する。
6.横領罪
横領罪は、占有する他人の所有物を委託を受けた趣旨に反して処分する行為を捕捉するものである。「所有の他人性」や「委託の趣旨との違背」のほか、領得意思の要否(隠すだけ、あるいは、使った分を後で補填する、といった意思であれば横領罪は成立しないのか)について、判例・学説を明らかにしつつ考察する。
7.背任罪・盗品等関与罪・毀棄罪
背任罪は、本人の事務を処理する者がその信頼を裏切って損害を与える行為を捕捉するものであり、成立範囲に不分明な点が多い。被害者の信頼(物の委託の趣旨)に違背する点で共通する横領罪との相違に配慮しながら成立要件を明らかにする。盗品等関与罪、毀棄罪についても解説する。
8.中間のまとめ
これまでの授業で十分な説明ができなかった点を補うとともに、具体的な事例の解決を通してそれらの知識をどのように応用すればよいのかを考える。
9.生命・身体に対する罪
生命・身体に対する罪に共通する問題である、人の始期と終期について明らかにしたうえで、殺人罪、傷害罪、過失致死傷罪に関する重要論点を取りあげて考察する。さらに、堕胎罪と遺棄罪について、とりわけ胎児性致死傷、堕胎により排出された子の殺傷、保護責任者遺棄致死と不作為による殺人の区別などを中心に検討を行う。
10.自由に対する罪
自由に対する罪としては、強要罪、逮捕監禁罪、略取誘拐罪、強制わいせつ・強制性交罪、業務妨害罪などが挙げられる。このうち、解釈上の争点の多い略取誘拐罪、強制わいせつ・強制性交罪を中心に、判例・学説の状況を明らかにし、分析を加える。
11.名誉毀損罪
人に対する社会的評価である「名誉」は保護に値する重要な法益であるとともに、その毀損を処罰することは表現の自由との関係で緊張をもたらす。両者の均衡点をどこに求めるかは解釈論上も、さらに立法論的にも難問といえる。判例・学説の検討を通してこの問題を考察する。信用毀損罪についても解説する。
12.放火罪
公共危険罪の典型である放火罪を取りあげる。多数の規定が置かれており、相互の関係を整理したうえで、建造物の現住性や一個性、焼損概念、公共危険の意義やその認識の要否などの論点を巡る判例・学説を紹介・検討する。その他の公共危険犯についても概観する。
13.文書偽造罪
公共の信用に対する罪の典型である文書偽造罪を取りあげ、その成立要件を説明するなかで、コピーの文書性、通称の使用、名義人の承諾などの問題を判例で現れた事案を素材に重点的に検討する。狭い意味での「文書」以外の有価証券、電磁的記録、支払用カード、通貨などの偽造についても解説する。
14.公務執行妨害罪・賄賂罪
国家的法益に対する罪の諸類型を概観したのち、公務員に向けられた犯罪である公務執行妨害罪と公務員が犯す犯罪である収賄罪(これと贈賄罪を併せて賄賂罪という)を取りあげ、判例・学説の分析を通してそれぞれの適用範囲を明らかにする。
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