刑法の基礎1[Criminal Law (Basic) I]

Numbering Code P-LAW2051100LJ41 Year/Term 2022 ・ 前期
Number of Credits Course Type 双方向・多方向形式と講義形式を併用する。
Target Year 1 Target Student
Language Day/Period 金4
Instructor name 塩見 淳
Outline and Purpose of the Course 刑法の適用に関する基本的知識および解釈論的技術を修得し、基幹科目としての「刑法総合1・2」におけるより深い議論のための基盤を構築することを目的としている。刑法典を中心とする重要な刑罰規定を取りあげ、判例・学説の状況を正確に理解してもらうとともに、体系的あるいは問題解決的観点からの検討を加えて、その問題点を明らかにする。
「刑法の基礎1」では、個別の処罰規定を超えた犯罪の一般的な成立要件を問題とする「総論」の分野のうち、複数の行為者により犯罪が遂行される「共犯」を除く部分を取りあげる。「共犯」については後期の「刑法の基礎2」で扱う。
Course Goals 上記「授業内容」記載の各項目についてその内容を具体的に説明できるように理解して、上記「概要」記載の成果を得ることである。
「刑法」関係の基礎科目と基幹科目を通じての到達目標については、別に掲載する「京都大学法科大学院の到達目標」(刑法)のとおりである。
Schedule and Contents 1.導入・罪刑法定主義
刑法の学び方について導入的な説明を行う。引き続いて、刑法の基本原則である「罪刑法定主義」の意義を、法律主義、規定の明確性、類推解釈の禁止、遡及処罰の禁止などの諸観点から解明する。
2.犯罪論の体系・主体・不作為犯
「犯罪」に理論的分析を加えるのが犯罪論であり、一般に、構成要件該当性/違法阻却事由/責任阻却事由という体系のもとで論じられている。その概要を紹介したのち、「構成要件」の各要素のうち、まず「行為主体」について法人処罰の問題を中心に、続いて「実行行為」について、とりわけ、一定の行為を「しない」ことが処罰される不作為犯を中心に判例および近時有力な学説の動向をふまえながら検討する。
3.因果関係(1)
実行行為と結果との間には一定の結びつき、即ち「因果関係」が必要とされる。因果関係は古くから今日に至るまで理論的対立のとりわけ激しい分野である。学説の変遷を、背景にある問題意識をも明らかにしつつ紹介し、さらに、判例についても、近時見られる新しい動向に配慮しながら、事案を類型に分けて分析し、その到達点を示す。
4.因果関係(2)
前回に引き続いて「因果関係」を取りあげる。
5.故意
犯罪は、それと知りながらやったという「故意」犯を原則とする。故意があるというためには、どの程度具体的に事実を認識していることを要するか、犯罪の実現が不確実と思った場合に故意はどの範囲で認められるのかなどの問題について、判例・学説の立場を明らかにし、分析を加える。
6.錯誤
行為者の認識と現実に起こった事実とが食い違う場合を「錯誤」という。錯誤があってもなお故意ありとされるのはどの範囲においてか。具体的事実の錯誤と抽象的事実の錯誤に分けて、判例・学説の立場を検討する。
7.過失
「過失」とは、結果の発生を予見できたのに不注意で予見しなかったことをいうのか、それとも、十分な結果回避措置を講じないままに行為に出たことなのか、誰を標準に不注意かどうかを判断するのかなどの基本的問題をめぐる考え方の相違を明らかにしたうえで、交通事故や大規模火災に関する判例を取りあげて、その具体的適用を検証する。
8.中間のまとめ
これまでの授業で十分な説明ができなかった点を補うとともに、具体的な事例の解決を通してそれらの知識をどのように応用すればよいのかを考える。
9.違法阻却の一般原理・正当防衛(1)
違法阻却を支える一般原理に関する考え方を紹介・検討したのちに、まず「正当防衛」を取りあげ、侵害の急迫性・違法性、防衛の意思、防衛行為の相当性などの成立要件をめぐる判例・学説を紹介し、検討を加える。
10.正当防衛(2)
前回で残された成立要件を検討するとともに、相手方が侵害行為をしようとしていると誤信して防衛行為に出た誤想防衛、さらに誤想過剰防衛といった防衛者に錯誤が認められるケースについても考察する。
11.緊急避難
「緊急避難」は、典型的には、自らが受ける侵害を回避するために無関係の第三者を侵害する行為(避難行為)に関わる。なぜ損害の他者への転嫁が許されるのか、どの範囲でなのかという難しい問題を、判例・学説を紹介しつつ解明する。
12.実質的違法阻却事由
被害者の同意、可罰的違法阻却など、条文には書かれていない違法阻却事由の幾つかについて検討する。
13. 責任阻却事由
「責任」の意義について簡単に取りあげたのち、責任能力の判断基準、それが一時的に失われあるいは減少した場合の取扱(原因において自由な行為)を巡る判例・学説を整理、分析する。次いで、違法性の意識(の可能性)および適法行為の期待可能性をめぐる判例を素材に、刑事責任追及の限界について考察する。
14.未遂
犯罪の実行に着手したものの失敗に終わった場合を「未遂(犯)」という。未遂でもなぜ処罰されるのかという処罰根拠をめぐる考え方を紹介したのち、成立要件である「実行の着手」の意義および判断基準を明らかにする。さらに、犯罪が成功する可能性がないために未遂犯ではなく不可罰とされる「不能犯」、開始した犯罪を自己の意思により中止して未遂にとどめる形態で、刑の減軽・免除という特典が用意されている「中止犯」(刑法43条但書)について判例・学説の状況の整理・分析を行う。
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