ウイルス多様性科学2
授業の特色
アフリカをはじめとする世界各地の霊長類から分離された病原性レトロウイルスの分子系統解析から、その起源・進化について考察する。また、サル/ヒト組換えエイズウイルスを用いたサルエイズモデルによる病原性の研究と予防・治療法開発について紹介する。
授業の紹介
ヒトの病原性レトロウイルスとして、エイズの原因ウイルスであるヒト免疫不全ウイルス(HIV)と、成人T細胞白血病の原因ウイルスであるヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)が知られているが、それぞれ類似のウイルス(SIV/STLV)をヒト以外の霊長類も保有している。これまでに報告されているアフリカをはじめとする世界各地のヒトやサルより分離された様々なタイプのHIV/SIVおよびHTLV/STLVの分子系統解析について紹介し、これらウイルスの起源と伝播・変異と進化の問題について考察する。
一方、急務とされるエイズ予防・治療法開発のためには、感染個体レベルで実験的に解析できる動物モデルが必須であるが、HIV-1が感染する動物種は非常に限られている。我々は、SIVを用いて、外皮蛋白遺伝子(env)を中心とした約半分のゲノム領域をHIV-1のものと置き換えたサル/ヒト免疫不全キメラウイルス(SHIV)を作製し、アカゲザルを用いたエイズの感染モデル系を確立した。このSHIV-アカゲザルのモデルを用いたエイズの病態解析とエイズ予防・治療法開発について説明する。
講義詳細
- 年度
- 2010年度
- 開講部局名
- 人間・環境学研究科
- 教員/講師名
- 三浦智行(准教授)
シラバス
教員 | 三浦智行 (農学博士、獣医師) 京都大学ウイルス研究所、感染症モデル研究センター、霊長類モデル研究領域、助教授。京都大学人間・環境学研究科相関環境学専攻自然環境動態論講座生物環境動態論分野ウイルス多様性科学2を担当。専門は、感染症ウイルス学。特に人に近い霊長類モデルを用いて感染症の病原性解明と予防・治療法開発の為の基礎研究を行っている。 |
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授業の概要・目的 | ヒトの病原性レトロウイルスとして、エイズの原因ウイルスであるヒト免疫不全ウイルス(HIV)と、成人T細胞白血病の原因ウイルスであるヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)が知られているが、それぞれ類似のウイルス(SIV/STLV)をヒト以外の霊長類も保有している。我々はこれまでにアフリカをはじめとする世界各地の研究グループとの共同研究により抗体陽性のヒトやサルより血液材料を得て、様々なタイプのHIV/SIVおよびHTLV/STLVの分離とその遺伝子解析を行い、これらウイルスの起源と伝播・変異と進化の問題を長期にわたり研究してきた。その過程で、特にアフリカ分離株の解析からこれらウイルスが霊長類において非常に低頻度ではあるがサル−ヒト間をも含む種間感染を繰り返しながら今日に至っている様子が明らかとなってきた。この非常に低頻度におこる種間感染に起因するヒトへのアウトブレイクがまさに新興感染症が起こる基本的メカニズムである。霊長類におけるレトロウイルス感染を人獣共通感染症と位置づけ、今後も警戒する必要があるであろう。 一方、急務とされるエイズ予防・治療法開発のためには、感染個体レベルで実験的に解析できる動物モデルが必須であるが、HIV-1が感染する動物種は非常に限られている。我々は、SIVを用いて、外皮蛋白遺伝子(env)を中心とした約半分のゲノム領域をHIV-1のものと置き換えたサル/ヒト免疫不全キメラウイルス(SHIV)を作製し、アカゲザルを用いたエイズの感染モデル系を確立した。このSHIVにより、env等を標的としたエイズの試作ワクチンの評価に通常の実験用サルの使用が可能となったが、一方で、実験感染により異なる病態を示すSHIV株が得られるようになった。これら異なる病態を呈するSHIVについて遺伝子レベルでの構造解析や更なる組み換え体の作製とその培養細胞レベルでの性状解析そしてサル接種実験による感染個体レベルでの病態解析を統合的に行うことにより、エイズの病原性の分子基盤を理解し、エイズ予防・治療法開発に貢献できるものと期待される。 |
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授業計画と内容 |
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