この講義(したがって試験も)は今年で最後でした。したがって前の晩に1時間半くらいだけでも勉強してもらえば,必ず合格できるように配慮してありました。

1. 熱容量が定数でともに \(C\) 、温度が \(T_1,T_2\) の2つの固体が、断熱容器の中で互いに熱的に接触して新たな平衡状態に達したときの、エントロピー変化量 \(\Delta S\) を計算せよ。この変化は可逆変化か?非可逆変化か?理由を述べよ。

エントロピーの計算をするために、それぞれを別々に終温度まで準静的に変えてからくっつけるとする。終温度は第一法則により、 \(T_f = (T_1+T_2)/2\) 、
\(\mathrm{d}S = \mathrm{d}’Q/T =C\mathrm{d}T/T\) を \(T_1\) から \(T_f\) まで積分して
\(\Delta S_1 = C \log (T_f/T_1)\) 、同様に \(\Delta S_2= C \log (T_f/T_2)\)
\(\Delta S = \Delta S_1 + \Delta S_2 = C \log {T_f}^2/T_1T_2 \gt 0\)
断熱系でエントロピーが増大しているから、非可逆である。

別の準静的過程を用いて計算したことを、必ず言及してほしい。

2. 外気温がセ氏33度の日に、エアコンによって室内から5キロワットの定率で熱が除去されて、室温がセ氏27度に保たれているとき、エアコンで消費される電力の熱力学的下限値を求めよ。

必要な仕事率を \(W\) として、クラウジウスの不等式により
\[
Q/T_1 – (Q+W)/T_2 \leq 0
\]
これより \(W \geq (T_2 – T_1)Q/T_1 = (6/300)Q = 100\mathrm{[W]}\)

3. 理想気体に限らず一般の熱力学系で以下のことが言えることを,熱力学の基本原理に照らして,それぞれ各50〜100字程度で簡潔に説明せよ。
(1) \(P-V\) 平面上に描かれた準静断熱過程を表す曲線は閉じたループを描かない。
(2) 同じく準静等温過程を表す曲線は閉じたループを描かない。
(3) 同一の準静サイクルを表す \(P-V\) 平面上および \(T-S\) 平面上の閉じたループのそれぞれが囲む面積は相等しい。

(1) このループを右回りに回れば,熱を受けとることなく正の仕事をする第一種永久機関が実現する。
(2) このループを右回りに回れば,一つの熱源から熱を受け取り正の仕事をする第二種永久機関が実現する。
(3) サイクルを一周すれば状態量であるエネルギーは元に戻るから
\[
0=\oint_C \mathrm{d}U =\oint_C [ T\mathrm{d}S-P\mathrm{d}V ] =\oint_C T\mathrm{d}S – \oint_C P\mathrm{d}V \quad したがって \oint_C T\mathrm{d}S = \oint_C P\mathrm{d}V
\]
「理想気体では,断熱過程は \(PV^γ = 一定\) ,等温過程は \(PV = 一定\) ,これらの曲線は単調関数ゆえ閉じたループを描くことはない」 という解答は,高校生当時の思考力のままですね。問題設定からして論外。
「平面上の閉曲線なら必ず勾配 \(\mathrm{d}P/\mathrm{d}V\) が正の部分を持ち,圧縮率が負になってしまうから,閉曲線になることはない」 これはかなり頭を使った形跡がうかがえる予想外のしゃれた答えだったが,設問では 「なめらかな閉曲線」 とことわってはいない。「もし閉曲線にとがった点,すなわち2本の等温(または断熱)曲線が交わる点があったとすると,この点において等温(または断熱)圧縮率が2つの値を持つことになるから,ここではなめらかな閉曲線だけを考えればよい。云々」と論を進めてもらっていたら,正解としなければならなかった。
「(3) サイクルだから \(\mathrm{d}U=T\mathrm{d}S-P\mathrm{d}V=0\) ゆえ \(T\mathrm{d}S=P\mathrm{d}V\) 」 これはダメです。

4. ゴムひもの熱力学では、張力を \(X\) 、長さを \(L\) として、気体の熱力学における仕事 \(-P\mathrm{d}V\) を、 \(X\mathrm{d}L\) に置き換えて考えればよい。
(i) 長さ \(L\) が、 \(L = f (X/T)\) の形で与えられる場合には、内部エネルギー \(U\) は温度 \(T\) だけで決まること、すなわち以下の式が成り立つことを示せ。[ヒント:Maxwell関係式]
\[
(∂U/∂L)_T = 0 \quad [ヒント:\ \mathrm{d}U = T\mathrm{d}S + X\mathrm{d}L,\, \mathrm{d}F = -S\mathrm{d}T + X\mathrm{d}L ]
\]
(ii) 以下の関係式を導け。 \(C_L\) は 長さを一定に保つときの比熱である。
\[
(∂T/∂L)_S = (T/C_L)(∂X/∂T)_L \quad[ヒント:\ dS = (∂S/∂T)_L \mathrm{d}T + (∂S/∂L)_T \mathrm{d}L ]
\]
(iii) ゴムひもを断熱的に引き延ばせば温度が上がる(実験事実)から左辺は正、したがって(ii)の右辺の偏微分で表された量は正となる。この量が正であることを、下線部のように物理的な現象(性質)を表す言葉で表現せよ。

(i) \(\mathrm{d}U = T\mathrm{d}S + X\mathrm{d}L\) より \((∂U/∂L)_T = T(∂S/∂L)_T + X\)
\(F = U – TS\) に対して
\(\mathrm{d}F = -S\mathrm{d}T + X\mathrm{d}L\) より \((∂S/∂L)_T = -(∂X/∂T)_L\) (Maxwell関係式)
したがって \((∂U/∂L)_T = -T(∂X/∂T)_L + X = -T^2(∂(X/T)/∂T)_L = 0\)
(ii) ヒントの式=0 とおいて比をとれば \((∂T/∂L)_S = -(∂S/∂L)_T/(∂S/∂T)_L\)
比熱の定義から \((∂S/∂T)_L = C_L/T\)
また 上と同じMaxwell関係式を用いれば
\((∂T/∂L)_S = (T/C_L)(∂X/∂T)_L\)
(iii) 「長さ一定で温度を上げると張力が増す。」

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