「過去問なんてクソくらえ」と自力で勉強してもらうのが一番うれしいのですが,公開してある「過去問集」というのは演習問題集みたいなもので,解説までつけてありますから,前の晩に1時間半くらいだけでも勉強してもらえば,必ず合格できるように配慮してあります。

1. (1)断面が円形で周長が \(10\mathrm{mm}\),長さが \(1\mathrm{m}\) の,まっすぐに伸ばされた電熱線に電流を流し続けて定常に達したとき,消費電力が \(2500\mathrm{W}\) で,導線の温度が \(1450\mathrm{K}\) であった。(2)太陽の表面温度は約 \(5800\mathrm{K}\) である。太陽と地球の間の距離は,太陽半径のおよそ \(200\)倍である。
以上の事実を用いて,地球上で太陽光に垂直な \(1\mathrm{m^2}\) の平面が受け取る太陽エネルギー流は,およそ何ワットになるかを計算せよ。途中の大気による反射や吸収は考慮しなくてもよいとする。

導線の表面積は \(0.01\mathrm{m^2}\) で,導線はまっすぐに伸ばされているため放射された光は再び導線に吸収されることはないので, \(σ \times 1450^4 \times 0.01=2500\) 。これから, \(σ =250000/1450^4[\mathrm{W/m^2K^4}]\) 。一方,太陽を球とすれば,太陽光は等方的に放射され,その強さは距離の2乗に反比例して薄められるから,地球上で受け取るエネルギー流は
\[
σ \times 5800^4 \times (1/200)^2 =[250000/1450^4] \times 5800^4/40000=(250000/40000) \times (5800/1450)^4=1600\ [\mathrm{W/m^2}]
\]
\(σ\) はシュテファン・ボルツマン定数で,高校地学の標準問題。 \(5800/1450=4\) を用いれば電卓がなくても数値計算は簡単である。電熱線がコイル状に巻かれている場合には,放射された光のある部分は導線に再び吸収されるため,実効的な放射面積が小さくなり,同じ電力でも温度はもっと高くなる。(例:電球のフィラメントの構造)

2. 理想気体に限らず一般の熱力学系で以下のことが言えることを,熱力学の基本原理に照らして,それぞれ各50〜100字程度で簡潔に説明せよ。
(1) \(P-V\) 平面上に描かれた準静断熱過程を表す曲線は閉じたループを描かない。
(2) 同じく準静等温過程を表す曲線は閉じたループを描かない。
(3) 同一の準静サイクルを表す \(P-V\) 平面上および \(T-S\) 平面上の閉じたループのそれぞれが囲む面積は相等しい。

(1) このループを右回りに回れば,熱を受けとることなく正の仕事をする第一種永久機関が実現する。
(2) このループを右回りに回れば,一つの熱源から熱を受け取り正の仕事をする第二種永久機関が実現する。
(3) サイクルを一周すれば状態量であるエネルギーは元に戻るから
\[
0=\oint_C \mathrm{d}U =\oint_C [ T\mathrm{d}S-P\mathrm{d}V ] =\oint_C T\mathrm{d}S – \oint_C P\mathrm{d}V \qquad したがって \oint_C T\mathrm{d}S = \oint_C P\mathrm{d}V
\]
「理想気体では,断熱過程は \(PV^γ = 一定\) ,等温過程は \(PV = 一定\) ,これらの曲線は単調関数ゆえ閉じたループを描くことはない」 という解答は,高校生当時の思考力のままですね。問題設定からして論外。
「平面上の閉曲線なら必ず勾配 \(\mathrm{d}P/\mathrm{d}V\) が正の部分を持ち,圧縮率が負になってしまうから,閉曲線になることはない」 これはかなり頭を使った形跡がうかがえる予想外のしゃれた答えだったが,設問では 「なめらかな閉曲線」 とことわってはいない。「もし閉曲線にとがった点,すなわち2本の等温(または断熱)曲線が交わる点があったとすると,この点において等温(または断熱)圧縮率が2つの値を持つことになるから,ここではなめらかな閉曲線だけを考えればよい。云々」と論を進めてもらっていたら,正解としなければならなかった。
「(3) サイクルだから \(\mathrm{d}U=T\mathrm{d}S-P\mathrm{d}V=0\) ゆえ \(T\mathrm{d}S=P\mathrm{d}V\) 」 これはダメです。

3. 以下の諸量を,根拠を示して計算せよ。結果だけ書いた解答は全く無効。変化量は増加なら正,減少なら負として,符号に留意せよ。
(1) 1モルの理想気体が,準静的等エンタルピー変化で圧力が半分になったときの,温度の変化量 \(\Delta T\) とエントロピーの変化量 \(\Delta S\)
(2) 気化熱が1モルあたりLで,ちょうど沸点温度 \(T_0\) にある気体1モルが,全部液化したときのエントロピー変化量 \(\Delta S\)
(3) 熱容量がともに定数 \(C\) で温度が \(T_1\) , \(T_2\) の二つの物体を接触させ,全体を断熱壁で囲んで時間を経たときに達する最終温度 \(T_f\) とエントロピー変化量 \(\Delta S\)

(1) 理想気体ではエンタルピーは温度だけで決まるから, \(\Delta T=0\) 。また, \(\mathrm{d}H=0\) より, \(T\mathrm{d}S=\mathrm{d}H-V\mathrm{d}P=-RT\mathrm{d}P/P,\,\mathrm{d}S=-R \mathrm{d}P/P\) ,積分して \(\Delta S=R \log 2\)
(2) 液化するときに放出する熱が潜熱 \(L\) で,一定温度 \(T_0\) で放熱するから,系のエントロピーは減少し, \(\Delta S=-L/T_0\)
(3) 熱力学第一法則により \(C(T_f-T_1)+C(T_f-T_2)=0\) ,したがって \(T_f=(T_1+T_2)/2\) 。また, \(\mathrm{d}S=\mathrm{d}’Q/T=C\mathrm{d}T/T\) を積分して,
\[
\Delta S = C \log(T_f/T_1) + C \log(T_f/T_2) = C \log({T_f}^2/T_1T_2) =C \log[(T_1+T_2)^2/4T_1T_2] \gt 0
\]

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