このところ毎回,問題が加速度的に易しくなっています。すべて講義中に話したことです。計算に必要な初公式は,例によって問題用紙にすべて参考資料として書かれていました。

1. 理想気体に限らず一般の系で,
(1) \(P-V\) 平面上に描かれた1本の準静断熱曲線は自ら交わらない(閉じたループを描かない)
(2) 同じく1本の準静等温曲線(温度 \(T\) )は自ら交わらない(同上)
ことを,熱力学の基本原理に照らして説明せよ。
[各100字程度: 例「もし交わるとしたら,このループを…….によって……が実現され,…….に反することになる。」]

(1) もし交わるとしたら,このループを時計回りにたどることによって,熱の供給なしに外部に対して(ループで囲まれた面積に相当する)正の仕事をするサイクル(または第一種永久機関)が実現され,熱力学第一法則に反することになる。
(2) もし交わるとしたら,このループを時計回りにたどることによって,温度 \(T\) のただ一つの熱源から正の熱をもらい,これをすべて外部に対する正の仕事に変えるサイクル(第二種永久機関)が実現され,トムソンの原理に反することになる。

永久機関は第一種と第二種を区別しないと解答にはなりません。
「時計回り」というのは,縦軸に圧力 \(P\) を,横軸に体積 \(V\) をとったときの話です。

「与えられた圧力に対して体積の値が一意的にならないのは困る」という答はスマートに見えますが,理屈がないと困ります。実際,気体の圧力を静かに下げて飽和蒸気圧より少し大きい圧力になった状態では,安定な液体の状態と過飽和蒸気のままの状態と,異なる体積値に対応する2つの状態が存在することが可能です。

なお,「理想気体に限らず」とわざわざ断ってありますから,断熱関係式 \(PV^γ = 一定\) ,や状態方程式(等温関係式) \(PV=RT\) により交わるはずはない,というのは論外です。講義の中で「どこまでが熱力学一般に言えることで,どこからは理想気体という特殊な場合ということを正確に理解すること」と何度も言っているのですが...

2.理想気体について,以下のような変化の際のエントロピー変化量 \(\Delta S\) を求めよ。理解できていることが判断できるよう必ず導出の根拠を1〜2行程度で述べること。モル気体定数を \(R\) とし,簡単のためモル定積比熱 \(C_V\) は温度によらない定数,したがって比熱比も定数であるとせよ。
(1) 1モルの理想気体が準静的に,体積一定で温度が \(x\) 倍になったとき
(2) 同じく,エンタルピー一定で圧力が \(1/x\) 倍になったとき
(3) 同じく,圧力一定で体積が \(x\) 倍になったとき
(4) 1モルの理想気体が,温度 \(2T\) , \(T\) の2つの熱源の間で働くカルノーサイクルを経て元の状態に戻ったとき
(5) 体積 \(2V\) の断熱的シリンダの真ん中に透熱的な薄い固定仕切りがあり,各側にそれぞれ温度 \(T\) , \(3T\) の理想気体を1モルずつ入れてから,しばらく放置して熱平衡に達したとき
(6) 同じく仕切りが断熱的な可動ピストンになっており,準静的に平衡に達したとき

(1) 理想気体では \(\mathrm{d}U=C_V\mathrm{d}T\) ,また体積一定だから \(\mathrm{d}V=0\) ,よって \(T\mathrm{d}S=\mathrm{d}U+P\mathrm{d}V=C_V\mathrm{d}T,\,\mathrm{d}S=C_V\mathrm{d}T/T\) ,積分して \(\Delta S=C_V[\log xT – \log T]=C_V \log x\)
(2) 同様に \(\mathrm{d}H=0\) より,\(T\mathrm{d}S=\mathrm{d}H-V\mathrm{d}P=-RT\mathrm{d}P/P,\,\mathrm{d}S=-R \mathrm{d}P/P\) ,積分して \(\Delta S=R \log x\)
(3) \(\mathrm{d}H=C_P\mathrm{d}T=(C_V+R)\mathrm{d}T,\,\mathrm{d}P=0\) より \(T\mathrm{d}S=(C_V+R)\mathrm{d}T,\,\mathrm{d}S=(C_V+R)\mathrm{d}T/T\) ,温度も \(x\) 倍になるから,積分して \(\Delta S=(C_V+R)\log x\)
(4) 問答無用。元の状態に戻れば,状態量であるエントロピーも元の値に戻り \(\Delta S=0\)
(5) それぞれ別々に体積一定で最終温度 \(2T\) まで準静変化させてからくっつける場合を考えれば,これを同じ最終状態が得られるから,(1)の結果を \(x=2\) と \(x=2/3\) に適用して \(\Delta S=C_V[\log 2 + \log (2/3)]=C_V \log (4/3)\) 。(授業でくどくどと説明してやったとおり。)
(6) 問答無用。準静断熱変化は等エントロピー変化であるから当然 \(\Delta S=0\)

計算がややこしそうな(4)と(6)は,実は問答無用・計算不要

3.熱伝導度が \(τ\) の金属でできた,断面が半径 \(a\) の円形の長い真っ直ぐな導線の軸方向に定常電流が流れ,導線内部で一様に単位体積・単位時間あたり \(q\) のジュール熱が発生している。導線の表面温度が \(T(a)\) となり定常に達しているとき,
(1) 導線の中心軸上の点における温度 \(T(0)\) を求めよ。[電荷が一様に分布しているときの静電場と静電ポテンシャルを求める問題をヒントにせよ。]
(2) また,導線が真空中(熱伝導なし)に置かれているとき,電源から導線に供給され続けている電気的エネルギーが,どのようなエネルギーに変わることによって収支が釣り合い,定常状態が成り立っていると考えられるか?表面温度 \(T(a)\) と \(q,\,a\) の関係を論じよ。

(1) 半径 \(r\) の位置での熱流密度を \(j(r)\) とすると,ガウスの法則 『半径 \(r\) の円柱の表面を貫く熱流は,この内部で発生している総熱量に等しい』 により \(2π r j(r) = π r^2q\) ,また,\(j(r)\) はこの位置での温度勾配に比例し \(j(r) = -τ \mathrm{d}T/\mathrm{d}r\) ,以上より \(\mathrm{d}T/\mathrm{d}r = -(q/2τ) r\) ,積分して
\(T(r) = T(0) – (q/4τ) r^2\) ,よって \(T(0) = T(a) + q a^2/4τ\)

(2) 表面から光(電磁波)エネルギーとして熱放射されて釣り合っている。シュテファン-ボルツマン則より, \(2π aσ T(a)^4 = π a^2q ,\quad ∴T(a) = (aq/2σ)^{1/4} \)

「長い真っ直ぐな」というのは(ガウスの法則を使う際に)熱流が軸対称になっているとみなせるための条件である。電気こたつや電球の中の電熱線のようにコイル状あるいは2重コイル状になっているような場合には、こう簡単にはいかないであろう。

(2)で「熱に変わっている」だけでは不十分。その場合には導線内にドンドンとエネルギーがたまってしまい,定常にはならないであろう。この生成され続けている熱(正確には内部エネルギー)が最終的にどこに散っているかを言わないと解答にならない。

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