自然の不思議を探る:文系・生命科学系向け現代物理学

概要
理解するという方法には、2つの側面がある。1つは、皆さんもよく熟知している客観的な理解である。これは、見ている対象とは独立に観測者があることを前 提としている。その独立性故に、私たちは普遍性について議論できると考えている。自然科学は、こうした客観的な世界観を緻密に体系化してきた学問であることは、言うまでもない。いま1つの方法は、主観的かつ体験的な理解である。対象そのものになりきることによって、その本質を捉えようとする方法である。武術・芸術などでは、書物の客観的知識とは別に、失敗と成功を繰り返すことによって、熟知していくということはよく知られている。前者は、西洋的であると言われ、後者は東洋的であると言われる。心理学者ユングは、前者を外向タイプ、後者を内向タイプと呼んだ。創造性を探究するということは、実はこの2つの方法を統合することに他ならない。そして、生命の本質は、両者の循環過程−すなわち、「自己・非自己循環過程」−として、捉えることが可能となる。これは、従来までの、要素還元論による物質への還元だけでは、生物と無生物の根本的相異を捉えることができなかったという反省を踏まえた、相補的なアプローチではないだろうか。

講義詳細

年度・期
2009年度・前期
開講部局名
全学共通科目
使用言語
日本語
教員/講師名
吉川 研一(理学研究科 物理学専攻)
村瀬 雅俊(基礎物理学研究所 統計動力学分野)

シラバス

開講年度・開講期 2009年度前期
教員
吉川 研一 (理学研究科 物理学専攻)

村瀬 雅俊 (基礎物理学研究所 統計動力学分野)
授業計画と内容
村瀬担当分
私たちは、環境を認識しているつもりでいながら、実は環境の一部しか認識できないという事実を‘認識’できないでいる。学問が発展しても、このジレンマが解消するわけではなく、ますます私たち自身の不完全な認識が精密化・細分化していくに過ぎない。こうした現実を無視して、既成の学問を受動的に受け入れるだけでは、最高学府で学ぶ意義は見いだせない。それでは、新しい学問の創出につながるような展開とは、どのようなものなのだろうか。本講義では、文系・理系を問わず、学問それ自体の基盤を再検討しながら、生命現象、自然哲学、心理現象、生体運動論など、私自身の論考を展開したい。

第1回  自然科学の思考方法

第2回  分岐現象と位相空間法の数理

第3回  分岐現象と安定性

第4回  生体内進化過程としての老化現象

第5回  対象認識とメタ認識

第6回  創造的学問の展望

第7回  21世紀の環境問題

第8回  進化的脳構築

第9回  21世紀の科学

第10回 ‘先天的’発達障害と‘後天的’行動障害

第11回 物質の科学’としての物理学の‘生命の科学’としての限界

第12回 西洋の科学と東洋の哲理
教科書・参考書等
参考までに、2007年度と2008年度に実施した、全学共通セミナーの講義ノートのURLは、以下に示す。

2007年度 村瀬雅俊 全学共通セミナーの講義ノート「生命とは何か?

2008年度 村瀬雅俊 全学共通セミナーの講義ノート「創造性とは何か?

2009年度全学共通セミナーは、「進化とは何か?」と題して開講する。

京都大学学術情報レポジトリー

■村瀬雅俊『歴史としての生命 : 自己・非自己循環理論の構築』2000

■M. Murase “The Dynamics of Cellular Motility” John Wiley & Sons(1992)

村瀬雅俊のホームページ

 
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