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現在位置: ホーム ja シラバス(2020年度) 文学研究科 日本語授業 6831004西南アジア史学(特殊講義)

6831004西南アジア史学(特殊講義)

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科目ナンバリング
  • G-LET25 66831 LJ38
開講年度・開講期 2020・後期
単位数 2 単位
授業形態 特殊講義
対象学生 大学院生
使用言語 日本語
曜時限 木3
教員
  • 仁子 寿晴(非常勤講師)
授業の概要・目的 《授業全体のテーマ》
本講義では、古典期バスラ系カラームが成立する際に何が排除され何が採択されたのかを概観しつつ、古典期バスラ系カラームが哲学として自律的に如何なるし方で思想を展開したのかを探る。言い換えると、古典期バスラ系カラームの総合的な在り方を問う。ここで言う古典期バスラ系カラームとは、現在のイラクの都市バスラに端を発しながら西暦9世紀から12世紀にかけて最終的にムウタズィラ派バスラ学団とアシュアリー学団に収斂する、アラビア語イスラーム文化の歴史から観て、そしてスンナ派思想形成において頗る重要な一局面である。なお、題目にイスラーム神学と補記したが、本来であれば不適当。その理由は、講義中に説明する。現在書かれているイスラーム思想史は、古典期バスラ系カラームをほぼ全面的に無視してきたため全面的な書き換えを要する。本講義は、より広い眺望から観れば、イスラーム思想全体を見直す作業でもある、
 古典期バスラ系カラームが撥無したのは、大きく言って次の三点である、(1)或るタイプの新プラトン主義(ただし、それは通常理解されている新プラトン主義ではなく、ウマイヤ朝期の思想家ジャフム・ブン・サフワーンが理解する限りでの新プラトン主義である)、(2)事物の本性ないし自然(そのものが固有に持ちつづけると考えられる本性)、(3)ギリシア思想における可能性理解。そうするなかで古典期バスラ系カラームは独特の存在論を、従来考えられているよりも精緻にそして徹底的に作り上げていった。残念なことに現在のイスラーム思想史記述には、そのことが完全に脱落する。
 古典期バスラ系カラームとファルサファ(しばしば哲学と訳されるが、取り分けてギリシア思想に根ざす/ギリシア語文献のアラビア語翻訳に根ざす思考様式である)の異同も本講義で扱う。イブン・スィーナー(西暦1037年歿)を筆頭にファルサファの文献は、ラテン語に翻訳され、現在でもそれに由来してそれなりに採り上げられもする。だがほとんど採り上げられないからといって古典期バスラ系カラームの言説がまるで無意味な訳でない。何故ならば、イスラームの大きな潮流であるスンナ派思想の全体の形成にその言説は大きく寄与するとともにファルサファの思想は古典期バスラ系カラームの思想とまるで無縁ではないからだ。むしろ、例えばイブン・スィーナーの思想で我々に独特に見える部分の多くは古典期バスラ系カラームの思想に聯関する(上に「それなりに」と言ったのはこのことを言う)。日本で名の知れたスフラワルディー(西暦1191年歿)にせよ、イブン・アラビー(西暦1240年歿)にせよ事情は同じ。少なくともその意味で、古典期バスラ系カラームの哲学/存在論を把握することは、頗る重要である。
 本講義では、一貫して(どのテーマに関しても)リチャード・フランクの英語諸論文をテクストとして用いる。古典期バスラ系カラーム(この言葉自身がリチャード・フランクの用語)に関して、彼らが言わんとすること、彼らが当時の文脈で言わねばならなかったことを彼らの言説に即して徹底的に考察したのは、フランクを措いて他にいないからだ。西暦20世紀後半でイスラーム思想研究に最も貢献した学者として私は躊躇なくリチャード・フランクを挙げる(私以外は挙げないだろうが)。彼の方法は、徹底的に古典学である。
 
 
到達目標 本講義は、基本的に古典学に立脚する。私の考える古典学の根幹は、我々の側の理解を前提にテクストを読むのでなく、テクストを書いた作者が何を言わねばならなかったのかを徹底的に考えることである。この講義において、西暦800年から西暦1200年までのイスラーム思想において、更には、ギリシア→アラビア語圏の文化移植のなかで、古典期カラームが何を主張をしたのかを概略的に把握した上で、イスラーム思想史を吟味し検討することができるようになる。だが、それよりも重要なのは、何がしか特定の時期・場所で書かれた文献が言わんとする理解が、我々の常識的理解とずれることを明確に意識することができるようになることだ。何語で書かれた過去の文献であろうとも、そのこと抜きに古典学は成立しないであろう。
授業計画と内容 基本的に以下のプランに従って講義を進める。ただし講義の進みぐあい――鋭い質問への対応も含む――に応じて順序や同一テーマの回数を変えることがある。事前に英文並びに私の日本語訳を配布するので出来うる限り眼を通しておいていただきたい。

第1回 概説――ムウタズィラ派バスラ学団・アシュアリー学団とイスラーム思想
第2回 古典期バスラ系カラームの背景(1)――或るタイプの新プラトン主義の撥無(R. Frank, ``The Neoplatonism of Jahm ibn Safwan''の読解・検討)
第3回 古典期バスラ系カラームの背景(2)――如何なるタイプの本性論を排除したのか(R. Frank, ``Notes and Remarks on the taba'i` in the teaching of al-Maturidi''の読解・検討)
第4回 古典期バスラ系カラームの背景(3)――如何なるタイプの自然学を排除したのか(R. Frank, ``Al-Ma`na: Some Reflections on the Technical Meanings of the Term in the Kalam and its Use in the Physics of Mu`ammar''の読解・検討)
第5回 古典期バスラ系カラームと哲学(1)――啓示に関する三つの眺望(R. Frank, ``Reason and Revealed Law: a sample of Parallels and Divergences in Kalam and Falsafa''の読解・検討
第6回 古典期バスラ系カラームと哲学(2)――ギリシア思想へのカラームよる異議申し立てと後代のギリシア思想の受容(R. Frank, ``Currents and Countercurrents[in the Mu`tazila, Ash`arites and al-Ghazali''の読解・検討
第7回 古典期バスラ系カラームと哲学(2)補遺――アル=ガザーリーの立場(R. Frank, ``Al-Ghazali's Use of Avicenna's Philosophy''の読解・検討
第8回 古典期バスラ系カラームと哲学(3)――ものの本来的在り方と必然性(R. Frank, ``Kalam and Philosophy: a Perspective from One Problem''の読解・検討)
第9回 ムウタズィラ派バスラ学団とアシュアリー学団、各々の存在論の展開概観(R. Frank, ``Hal'' EI2の読解・検討)
第10回 ムウタズィラ派バスラ学団の存在論(1)――「様態」論(R. Frank, ``Abu Hashim's Theory of `States': its Structure and Function''の読解・検討)
第11回 ムウタズィラ派バスラ学団の存在論(2)――「もの」理解(R. Frank, ``Al-Ma`dum wal-Mawjud: The Non-Existent, the Existent, and the Possible in the Teaching of Abu Hashim and his Followers''の読解・検討)
第12回 アシュアリー学団の存在論(1)――物体観(R. Frank, ``Bodies and Atoms: the Ash`arite Analysis''の読解・検討)
第13回 アシュアリー学団の存在論(2)――第一次的に存在するもの(R. Frank, ``The Ash`arite Ontology I: Primary Entities''の読解・検討)
第14回 アシュアリー学団の存在論(3)――可能者概念(R. Frank, ``The Non-Existent and the Possible in Classical Ash`arite Teaching''の読解・検討
第15回 アシュアリー学団の存在論(4)――「様態」論(R. Frank, ``Al-Ahkam in Classical Ash`arite Teaching''の読解・検討
成績評価の方法・観点 期末レポートのみで評価する。
レポートについては到達目標の達成度に基づき評価する。
独自の工夫が見られるものについては、高い点を与える。
履修要件 特になし
授業外学習(予習・復習)等 事前に英文テクストと和訳を配布するので講義に備えて読んでおくこと。
教科書
  • 使用テクストは以下のRichard Frank論文/記事十四篇(以下の列挙は、講義で用いる順番とは無関係) Richard Frank論文集(三巻本)から十一篇。 R. Frank, Philosophy, Theology and Mysticism in Medieval Islam(Texts and Studies on the Development and History of Kalam Vol. 1), Aldershot/Burlinton, 2005所収、第7論文``Reason and Revealed Law: a Sample of Parallels and Divergences in Kalam and Falsafa'', 第8論文``Current and Countercurrents[in the Mu`tazila, Ash`arites and al-Ghazali]'', 第9論文``The NEoplatonism of Jahm ibn Safwan'', 第11論文``Al-Ghazali's Use of Avicenna's Philosophy''(以上四篇) R. Frank, Early Islamic Theology: the Mu`tazilites and al-Ash`ari(Texts and Studies on the Development and History of Kalam Vol. 2) , Aldershot/Burlinton, 2007所収、第4論文``Al-Ma`dum wal-Mawjud: the Non-Existentm the Existent, and the Possible in the Teaching of Abu Hasim and his Followers'', 第5論文``Abu Hashim's Theory of `States': its Structure and Function''(以上二篇) R. Frank, Classical Islamic Theology: The Ash`arite (Texts and Studies on the Development and History of Kalam Vol. 3), Aldershot/Burlinton, 2008所収、第8論文``The Non-Existent and the Possible in Classical Ash`arite Teaching'', 第9論文``The Ash`arite Ontology I: Primary Entities'', 第10論文``Bodies and Atoms: the Ash`arite Analysis'', 第11論文``Al-Ahkam in Classical Ash`arite Teaching'', 第12論文``Notes and Remarks on the Taba'i` in the Teaching of al-Maturidi''(以上五篇) 更に論文集未収録の三篇 ``Al-Ma`na: Some Reflections on the Technical Meanings of the Term in the Kalam and its Use inn the Physics of Mu`ammar,'' JAOS 87 (1967), pp.248-259. ``Kalam and Philosophy: a Perspective from One Problem,'' in P. Morewedge(ed.), Islamic Philosophical Theology, Albany,1979, pp.71-95. ``Hal,'' in Encyclopaedia of Islam(Second Edition), Supplement volume. 内容が著しく高度なので原文和訳を附して配布する。イスラーム思想の基礎知識は逐次説明するので既習の必要なし。本来であればアラビア語原文を参照したいが、授業参加者を限定することになるのでそれはしない。したがってアラビア語を学んでいる必要はない。