創造性とは何か?

授業の紹介
京都大学基礎物理学研究所は、日本人としてはじめてノーベル賞を受賞された湯川秀樹博士を初代所長に迎え、我が国初の全国共同利用研究所として1953年に設立された。半世紀以上の歴史をもつ本研究所で、京都大学1回生向けの全学共通少人数セミナーが開講されるのははじめての試みである。その最初の年の受講生は、理学部、農学部、工学部、総合人間学部、文学部、法学部の学生から構成されている。その総勢は、11名(内、女子学生2名)を数え、ほぼコンスタントにセミナーへ参加している。また、6月19日からは、ハーバード大学からの女子留学生が新たに参加することとなり、英語での講義に切り替えることになった。トップページの写真は、その際の集合写真とセミナー風景のスナップである。
1990年代に、我が国を嵐のように駆け巡った教養部廃止に端を発した、要素還元論的、専門分化型学問への偏重への危惧から、私はあえて人類の永遠のテーマである「生命とは何か?」をセミナーの科目名として選ぶことにした。その意図は、自然科学と人文科学の統合、西洋科学と東洋哲学の融合にある。そして、このセミナーを文字通りの体験学習の場として、活用することを目指した。ほとんどの学生は毎回出席し、かつ非常に快活に議論に参加しているのが現状である。
この度、京都大学オープンコースウエアにて、本セミナーの講義ノートを公開させていただくことになり、みなさまからのご意見を多数お寄せいただければ幸いである。2007年10月には、湯川博士生誕100年を記念して、「生命とは何か?」をテーマとした国際会議を主催する。ご参考までに、本国際会議のポスターとプログラムも付録として掲載している。本セミナーの参加学生の何名かは、はやくも参加登録を済ませており、世界最先端の学際研究討論の現場を目の当たりにすることになる。こうした機会を新入生に提供できることこそ、本学に付置されている全国共同利用研究所ならではと思う。異常とも思える効率性・生産性重視の風潮にあって、あえて「生命とは何か?」という根本問題に立ち返る勇気とゆとりを失いたくないものである。

講義詳細

年度・期
2010年度・前期
開講部局名
全学共通科目
使用言語
日本語
教員/講師名
村瀬 雅俊(基礎物理学研究所 准教授)

シラバス

授業の概要・目的
創造性とは何か?これが本講義のテーマである。これはまた人類にとって、極めて魅力的であり、そのために永遠のテーマとも言える。実際に湯川秀樹も、このテーマを生涯のテーマとして探究した一人である。そして、こうしたテーマに対する有効なアプローチとして、東洋の英知の重要性・必要性を熱心に主張し続けた。いわゆる西洋的な自然科学を探究していた湯川がその創造的な発想の根底として、東洋に目を向けていたことは特筆に値する。この教訓から、東洋の英知と西洋の知識をいかにして統合していくかが問われることは自明である。本講義の目的は、単なる客観的な知識を提供することではない。そうではなく、一般的で客観的な知識が個人的で主観的な体験を通して、いかにして再構成されるかを各自が納得して自得できることを目指す。知識とは、単なるデータベースに蓄えられている情報の残骸ではない。知識とは、私たち人類の絶え間ない活動を通して、常に再構成され続けている動的過程なのである。新発見すなわち創造性の発現とは、従って、未知なる知識の断片の発見ではなく、既知である知識の大胆な再構成なのである。こうした観点に熟知することは、自然科学・社会科学・人文科学などのあらゆる科学を学ぶ上で、必要不可欠である。

参考までに、村瀬雅俊のホームページは以下のアドレスにて公開している。
http://www2.yukawa.kyoto-u.ac.jp/%7Emurase/
授業計画と内容
理解するという方法には、2つの側面がある。1つは、皆さんもよく熟知している客観的な理解である。これは、見ている対象とは独立に観測者があることを前提としている。その独立性故に、私たちは普遍性について議論できると考えている。自然科学は、こうした客観的な世界観を緻密に体系化してきた学問であることは、言うまでもない。いま1つの方法は、主観的かつ体験的な理解である。対象そのものになりきることによって、その本質を捉えようとする方法である。武術・芸術などでは、書物の客観的知識とは別に、失敗と成功を繰り返すことによって、熟知していくということはよく知られている。前者は、西洋的であると言われ、後者は東洋的であると言われる。心理学者ユングは、前者を外向タイプ、後者を内向タイプと呼んだ。創造性を探究するということは、実はこの2つの方法を統合することに他ならない。

具体的には、村瀬雅俊著『歴史としての生命-自己非自己循環理論の構築』(京都大学学術出版会、2000年)を参考文献とするが、その後の発展も取り入れながら「創造性とは何か?」に関する基礎的理解が得られるよう計画したい。 昨年は、「生命とは何か?」と題して講義を開講した。その詳細は、以下に公開している。
https://ocw.kyoto-u.ac.jp/course/810/
本年度も、この講義計画を参考にして欲しい。

 

  • 第1回 はじめに

  • 第2回 学問の創造

  • 第3回 創造性の本質:対立から統合へ、有限から無限へ

  • 第4回 創造性の発現:学習過程と病気発症

  • 第5回 環境認識の創造的意義

  • 第6回 21世紀の環境問題:電磁波の生体影響

  • 第7回 統合生命科学の創造に向けて(その1)

  • 第8回 統合生命科学の創造に向けて(その2)

  • 第9回 統合生命科学の創造に向けて(その3)

  • 第10回 統合生命科学の創造に向けて(その4)

  • 第11回 統合生命科学の創造に向けて(その5)

  • 第12回 創造的展望

教科書・参考書等
2007年10月には、「生命とは何か?湯川のこれから100年の夢」と題して、村瀬雅俊が国際会議を主催した。 その詳細は、以下のアドレスで公開している。
http://www2.yukawa.kyoto-u.ac.jp/%7Eny2007/Menu.html

本国際会議では、88名の参加登録者数のうち、19名は外国からの招待者であった。討論したテーマは、生命の起源から分子生物学、発生生物学、認知科学、複雑系生命科学、心理学、環境臨床医学、宗教学、計算機科学にいたるまで実に広範におよぶ。また、この会議には、その年の前期に受講していた学部生5名の参加・協力も得た。本学での教育・研究が有機的に統合するよい機会となったことは、いうまでもない。

本年の講義でも、こうした経験を踏まえながら、さまざまな観点から多くのテーマにまたがる創造性という共通の問題を切り出していきたい。

斬新な意見交換に向けて、みなさんとの議論の時間も十分に持ちたい。

理系・文系を問わず、受講意欲をもつ学生を広く募集する。昨年度の受講学生の感想は、以下のアドレスにて公開している。
https://ocw.kyoto-u.ac.jp/course/810/

基本的には、受講希望者全員の受け入れを前提にしているので、その方向で各自の受講計画を立てて欲しい。

参考図書は、以下のアドレスにて公開している。
http://ocw.kyoto-u.ac.jp/ocw/general-education-jp/what-is-life/reference
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