哲学講義

授業の特色
本講義では、古代から現代にいたる哲学的理論を概観するだけでなく、社会や科学における現実的な問題と哲学との関わりに注目しながら、現在を生きる哲学の「仕事」とその「意義」を解説する。

授業の紹介
本講義のテーマは「本質」概念の検討である。「本質」は、人種問題やアイデンティティといった社会的問題や、物理学、化学、生物学など自然科学における諸概念の重要な背景になっている。本講義では、この事実を踏まえつつ、アリストテレス、トマス・アクィナス、シェリング、サルトル、ロック、現代の言語哲学などを手掛かりに、「本質」概念の特徴およびその問題点を解説する。

講義詳細

年度
2006年度
開講部局名
文学部
使用言語
日本語
教員/講師名
出口 康夫(文学研究科 准教授)

シラバス

開講年度・開講期 2006
教員
出口 康夫 准教授
授業の概要・目的
第1回 「人種」概念にまつわるいくつかの問題を手掛かりに、哲学の仕事は社会的公共財としての「概念」の検討にある、ということを確認する。
第2回 「本質」概念の生みの親であるアリストテレスの本質論を概観する。言語分析に基づいた分岐階層構造による本質の定義というその特徴を確認する。
第3回 前回の続き。アリストテレス本質論の諸特徴と、それが後世の世界観に与えた多大な影響を確認する。
第4回 アリストテレス本質論を批判的に検討する。「弁別基準」の不在、そしてアリストテレス本質論においてその事態を生み出した構造的欠陥を指摘する。
第5回 実存と本質を巡る哲学説を概観する。今回は、創造に関するトマス・アクィナスの議論を手掛かりに、彼の「本質は実存に先立つ」というテーゼを解説する。
第6回 前回の続き。今回は、シェリングによるトマスの理論の継承と発展と、実存主義の出発点としてのキルケゴールの見解を見る。
第7回 前回の続き。今回は、「実存は本質に先立つ」としたサルトルの考えを見る。さらに、彼の社会問題への積極的な取り組みを紹介する。
第8回 ロック哲学の基本的枠組みを確認した上で、ロックが提唱した「ノミナル・エッセンス」と「リアル・エッセンス」を区別する本質理論を見る。
第9回 前回の続き。リアル・エッセンスとノミナル・エッセンスの非一致性に関するロックの議論を、C.I.ルイスの思考実験を参照しつつ、考察する。
第10回 「意味=抽象観念」と「アーキタイプ論」を二つの柱とする、ロック意味論を検討する。
第11回 ロックのアーキタイプ論を、アーキタイプの複数性、オリジナルの喪失等々の観点から再構築し、分岐アーキタイプ論を提案する。
第12回 現代の「指示の理論」における本質主義の復興=ネオ・アリストテレス主義を、分岐アーキタイプ論を踏まえつつ、批判的に検討する。
第13回 科学における本質主義=一元論的還元主義の不適切さを、物理、化学、生物学において指摘し、それに変わる多元的自然観を示唆する。
授業計画と内容
哲学の問題とは何か。それはどう考えられてきたのか。どう考えたらいいのか。
哲学に固有の対象・方法はない。あるのは固有な「問題の立て方」だけである。哲学の問いは、身を焦がすような悩みや、個々の科学の基礎的な概念や前提に対する疑問といった具体的な文脈から生まれる。が、これらの悩みや疑問はいまだ「哲学的」とは言えない。個人の悩みが、人間誰もが直面する課題として見直されたり、基礎的な概念の吟味が、個別科学の領域を横断して広がったとき、はじめて問いは「哲学化」するのである。この講義では、哲学における代表的な問題をいくつか選び、それらの発生の現場を踏まえ、それらがいかに答えられてきたのか、我々はどのように答えるべきかを考えたい。

第1回 哲学の問題と存在理由:人種問題を事例に
第2回 アリストテレスの「本質」(1)
第3回 アリストテレスの「本質」(2)
第4回 アリストテレス本質論の批判的検討
第5回 「実存」と「本質」(1)
第6回 「実存」と「本質」(2)
第7回 「実存」と「本質」(3)
第8回 ロックとアリストテレスの「本質」(1)
第9回 ロックとアリストテレスの「本質」(2)
第10回 ロック意味論の検討
第11回 アーキタイプ論の再構築
第12回 指示の理論と「意味としての本質」
第13回 一元論的還元主義vs多元論的自然観
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