生物有機化学Ⅰ
授業の特色
大多数の人が農薬は“悪玉”と考えている.実際,過去に使われた農薬の中には,安全性に問題があったものもあるが,現在使用されている農薬の安全性はきわめて高いことが科学的に示されている.この授業では,作物生産にとって農薬が果たす役割を正しく理解し,農薬の化学構造とその作用性を知ることによって安心と安全の区別ができる人材を育てる.
授業の紹介
農薬の歴史,種類,作用性について概説する.農薬の安全性と毒性について学び,代表的な殺虫剤,殺菌剤,除草剤の化学構造と作用機構について学習する.
講義詳細
- 年度
- 2004年度
- 開講部局名
- 農学部
- 教員/講師名
- 宮川 恒(教授)
中川 好秋(准教授)
- 備考
- <掲載協力> 住化技術情報センター
シラバス
教員 | 宮川 恒 教授 中川 好秋 准教授 |
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授業の概要・目的 | 第1回 農作物の害虫,病原微生物および雑草による被害について概説し,農薬の歴史,分類および役割について説明する.また,農薬を含む化学物質の毒性試験について学び,安全に使用するための方策について知る. 第2回 殺虫剤の分類,作用を概観するとともに,主要なターゲットとなる神経系の刺激伝達機構を説明する.神経細胞間あるいは神経と筋肉の間の刺激伝達に関わるアセチルコリンの役割とその分解メカニズム,分解を阻害する有機りん殺虫剤について学ぶ. 第3回 昆虫の神経系に作用する薬剤のうち,天然物であるフィゾスチグミンとニコチンおよびそれらの誘導体の構造と作用について解説する. 第4回 神経系における神経伝達物質γアミノ酪酸の役割を説明し,この受容機構を阻害する薬剤について学ぶ. 第5回 除虫菊の有効成分であるピレトリンの構造と作用,さらに天然ピレトリンが化学的に改良されて農業用殺虫剤として用いられるようになった構造展開について学ぶ. 第6回 ホルモンを介した昆虫の変態や脱皮のメカニズムを説明し,これを阻害する薬剤の構造と活性について学ぶ. 第7回 殺菌剤の分類,作用を概観した後,細胞の呼吸(エネルギー代謝)を阻害する薬剤の構造と作用点について学ぶ. 第8回 細胞分裂の機構や細胞膜の構成成分について概説し,殺菌剤として用いられている細胞分裂阻害剤ならびに細胞膜の正常な機能にとって重要なステロールやリン脂質の合成を阻害する化合物を説明する. 第9回 病原微生物を“殺さなくても”作物の病気を防ぐことができることを学ぶ.菌が植物に侵入する際に重要なメラニンの生合成を阻害する化合物,植物に本来備わっている抵抗性を高めて病気から守る抵抗性誘導剤について説明する. 第10回 除草剤の分類,作用について概観した後,除草剤の歴史上重要な位置を占める植物ホルモン(オーキシン)の作用を撹乱する薬剤について説明する.さらにそれらの薬剤と類似の構造を持ちながら,作用点が異なる除草剤について解説し,化合物の構造と活性の関係について学ぶ. 第11回 植物のみがもつ光合成という養分獲得機構およびそれに関与する色素成分について概説し,光合成の電子伝達や色素の生合成を阻害することによって作用を現す除草剤について学ぶ. 第12回 植物における必須アミノ酸の生合成経路について学び,それらの生合成を阻害する除草剤を解説する.除草剤耐性をもたせた遺伝子組換え作物についても説明する. 第13回 農薬の生物における代謝分解反応および環境動態について学ぶ.さらに代謝反応の生物種によるちがいが,農薬が対象とする生物とそれ以外の生物との間で異なる作用をもたらす例を解説する. |
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授業計画と内容 | 農作物を害虫や病気などによる被害から守るために使用されている農薬の歴史,現在使用されている農薬の化学構造とその作用発現のメカニズムについて解説する.農薬の合成法を例にあげて,有機化学反応を学ぶ. 1.農薬の役割 農作物の害虫,病原微生物および雑草による被害について概説し,農薬の歴史とその役割について説明する。 2.殺虫剤 害虫による被害を防ぐために用いられる薬剤の化学構造とその作用メカニズムについて解説する。 3.殺菌剤 病原微生物による被害を防ぐために用いられる薬剤の化学構造とその作用メカニズムについて解説する。 4.除草剤 雑草による被害を防ぐために用いられる薬剤の化学構造とその作用メカニズムについて解説する。 5.農薬の生体内および環境中での運命 農薬が生物の体内あるいは環境中で受ける代謝分解反応について解説する。 6.農薬の選択性 農薬が対象とする生物とそれ以外の生物との間で異なる作用が生じるメカニズムを考察する。 ボルハルト・ショアー「現代有機化学」を適宜参照し,関連する有機化学的な知識を確認するための課題を与えることがある. |
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教科書・参考書等 | [1] 桑野栄一,首藤義博,田村廣人 : 農薬の科学 −生物制御と植物保護−, 朝倉書店, 2004 [2] 山下恭介ほか : 農薬の科学(改訂版), 文永堂出版 |