電気電子工学のための量子論

授業の特色
量子論の理論的枠組みについて初歩的なレベルから丁寧に学ぶ。線形空間と複素振幅(フェーザ)の特徴を合わせもった、ヒルベルト空間とその上の演算子について理解する。ブラケットを用いた量子力学の記述を習得することにより、離散状態、連続状態を統一的に扱うことができるようになる。

授業内容
量子力学の枠組みをできるだけ単純な形で示し、多様な量子の振舞いを捉える視点の確立を目指す。簡単な系を例に、数学的手法と物理的イメージを与える。

講義詳細

年度・期
2007年度・後期
開講部局名
工学部
使用言語
日本語
教員/講師名
北野 正雄(工学研究科 教授)

シラバス

開講年度・開講期 2007・後期 配当学年 電気電子工学科3回生
教員
北野 正雄(工学研究科 教授)
授業の概要・目的
量子力学の理論的枠組みをできるだけ単純な形で示し,多様な量子の振舞いを統一的に捉えることのできる視点を目指す.簡単な系を例に,数学的手法と物理的イメージを与える.

第1週
ガイダンス
アンケート。講義の進め方。
量子論の歴史
プランクの光量子仮説から量子コンピュータまで。
プランク定数
量子論でもっとも重要な定数。次元(エネルギー x 時間、作用、角運動量)。小ささ。
光子検出器(デモ実験)
アバランシェフォトダイオードによる微弱光の検出。ポアソン分布
ヤングの実験
微弱光(光子レベル) demo

第2週
光子と偏光
偏光した光子を偏光板に通した場合を、古典的な電磁波の場合と比較する。軸が一致しない場合には本質的に確率的振る舞いが見られることを知る。
ヒルベルト空間の必要性
線形空間を複素数に拡張する。フェーザを多次元化したものであり、複数の振動を扱うためのツールとして有効。また無限次元の場合もあり、関数の空間を扱うことができる。

第3週
複素線形空間と内積
複素線形空間における内積の定義を、フェーザによる平均電力の表示と対比させながら導入する。
正規直交基底
複素線形空間における基底を導入。複素基底の例として、円偏光基底を考える。
基底の変換
基底の変換に伴って、成分が変換を受けることを見る。ベクトルは基底に依らない存在であることを確認する。

第4週
ブラケットの導入
ベクトルとケットで表す。内積をブラケットで表す。シュレディンガー音頭
演算子
複素線形空間における演算子。ブラケットによる表現。

演算子の和、積
演算子の積の非可換性。

第5週
1の分解
基底の完全性と恒等演算子の射影分解
演算子の行列表現
1の分解を利用して演算子の行列表現を求める。
双対空間
線形汎関数の集合としての双対空間。ブラの空間。

第6週
共役演算子
共役演算子の定義
ユニタリ演算子
内積を保存する演算子
エルミート演算子
自己共役な演算子

第7週
双対空間、共役演算子の復習
ダイヤグラムによるまとめ
正規演算子
ユニタリ、エルミートを含むクラス
固有値と固有ケット
スペクトル分解、演算子の関数

正規演算子のスペクトル分解定理
証明

第8週
内挿公式による射影演算子の求め方
スペクトル分解の具体的なアルゴリズム
量子系の時間発展1
量子系を独立な調和振動子の集まりと考えた場合の系の時間発展、時間発展演算子、ハミルトニアン、運動方程式

第9週
量子系の時間発展2
一般的な時間発展演算子による運動。ハミルトニアン、運動方程式
量子論における測定、物理量の意味
バラつき、離散的な値、測定による系の変化
物理量とエルミート演算子
スペクトル分解と測定、物理量との関係

第10週
物理量の平均値
平均値、分散、アンサンブル
状態の不確定関係
交換しない量の間の不確定関係
密度演算子と射線
射線と状態の一対一対応
統計的混合状態
純粋状態と混合状態

第11週
混合状態と密度演算子
干渉項の物理的意味
2状態系
2状態系の例と意義
複合共振器
2状態系とのアナロジー

第12週
複合共振器のつづき
回路方程式から量子論の運動方程式を導く
ブロッホベクトル
2状態系を3次元の実ベクトルで表す

第13週
ブロッホベクトルのつづき
ブロッホベクトルの運動方程式の導出.
結合共振器列とシュレディンガー方程式
コイルで相互結合された共振回路の列の回路方程式がシュレディンガーの波動方程式に帰着されることを示す
連続状態のブラケット表示
連続変数でラベルづけされた基底によるブラケット表示について、離散変数の場合との類似点、相違点を調べる
授業計画と内容
量子論の必要性 ( 1 回 )
光子や原子波の干渉実験などの実例をもとに,量子論の必要性について述べる.

状態とヒルベルト空間 ( 2 回 )
量子力学の数学的枠組みである複素線形空間(ヒルベルト空間)を導入し,量子状態のベクトルによる表現,ユニタリ変換による基底の変換について説明する.

物理量と演算子 ( 2 回 )
物理量と自己共役演算子の対応についてのべる.演算子のスペクトル分解,測定理論について説明する.

量子系の例 ( 2 回 )
まず,最も簡単な量子系の例としてスピンや偏光のように離散的な変数で記述できる系について調べる.さらに,連続変数の量子系の例として,1次元空間のポテンシャル中を運動する粒子を扱う.量子井戸における状態の離散化,トンネル効果などについて調べる.

時間発展 ( 2 回 )
系の運動を記述する時間発展演算子と,その生成子(微分)としてのハミルトニアンについて述べる.シュレディンガー方程式,ハイゼンベルグの運動方程式を導入する.

調和振動子 ( 1 回 )
光子やその他の素励起のモデルとなる調和振動子の量子化について述べる.生成消滅演算子を導入し,その代数的扱いについて説明する.

相互作用 ( 1 回 )
外場や他の系の影響をうけて運動する量子系の扱いについて述べる.特に周期的な外場に置かれた系や,強く結合した2状態系のコヒーレントな相互作用について詳しく調べる.

合成系とエンタングルメント ( 1 回 )
複数の量子系をまとめて考えるために,それぞれの状態空間のテンソル積を導入する. このようにして得られる合成系の状態が示すエンタングルメントという性質について調べる. これは情報処理や量子測定において非常に重要な概念である.

開放系の量子力学 ( 1 回 )
外部と相互作用している系を記述するために密度演算子を導入する. また不完全な測定を記述するために一般化された測定という概念を導入する.
成績評価の方法・観点
・定期試験(約70%)
・レポート(4回程度 約30%)
新しい概念が多く出てくるので、授業を聴講するだけでは不十分で、しっかり時間をかけて自分のものとなるよう勉強する必要がある。
履修要件
[予備知識]
線形代数,フーリエ解析,微分方程式,電磁気学
教科書・参考書等
[教科書]

清水明:「量子論の基礎」(サイエンス社)

講義ノート

[参考書]

J. J. サクライ; 桜井明夫 (訳):「現代の量子力学」(上, 下)(吉岡書店)

Leslie E. Ballentine: Quantum Mechanics: A Modern Development (World Scientific, 1998) ISBN: 9810241054

M. A. Nielsen and I. L. Chuang; 木村 達也(訳): 量子コンピュータと量子通信 (1) (オーム社, 2004) ISBN: 4274200078

* 志賀浩二:「固有値問題30講」(朝倉書店, 1991)
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